再会・赤髪の少女

 入学式の模擬戦の時に対戦相手となった赤い髪のポニーテールに高笑いが印象に残っている。

 たしかに、あの結果ならボクの知らないところで頭が壊滅レベルで悪いとかでなければ入学してくるとは思っていたけど、まさか向かいの部屋になるとは。

 いや、待ってくれ。それよりも気になるのは彼女も寮暮らしなのか。


「お久しぶりですわ! お互い無事に入学できてよかった!」


 模擬戦の時から発揮していたテンションは健在だった。あれは戦闘でハイになっていたとかじゃなくて素なんだな。


「お、お久ぶりです」

「あら、同じ学年ですもの。敬語なんていらないですわ」

「い、いえ、でも生まれとか色々がありますから」


 それに別に入る時期が同じでも年齢が違う人も多いはずだし。先輩の様子見てても結構年齢層は別れてたよ。あくまで基本的に15歳前後ってだけで。


「もう、そう言うなら仕方ありませんわね。たしかに、礼節も大切にするべきですわ」

「わかってもらえてよかったです」


 まあ実際のところはこの国の女って体外強いから下手に出るのが癖になっているだけなんだけどね。基本的にボクからしたら大体の女が立ち場上とか思って生きてたから。


「この前はしっかりとは名乗れませんでしたわね。わたくしはアミリア・ルージュ。ルージュ家の長女です」

「ノアです」

「…………」

「えっと……」

「ノアさん! これからよろしくおねがいしますわ!」


 一瞬、彼女が止まった気がする。その後すぐに元のテンションにもどって両手で握手された。

 多分、家の名前を言わなかっただろう。名前をくれたけど、流石にフィオラ家を名乗れるわけもない。実際にはどういう名前でボクは登録されてるんだろう。

 どこかで確認できる方法はないだろうか。


「では、わたくしは他の部屋にも挨拶にいってきますので。また、お時間ができた時にゆっくりと」

「は、はい」


 彼女はそう言うと隣の部屋のほうへ歩いていった。

 まだボクも挨拶にいってないから一緒にという手もあったけど。名前を名乗るたびに微妙な空気になりかねない。

 ボクは扉を閉めて中にはいる。そして荷物の中や机の引き出しなどの中身を机の上に出してみる。


「名簿でもあればとおもったんだけどないか」


 結果は残念ながら不発に終わった。

 ボクは諦めて違う方法を考えながら出したものを引き出しに閉まっている時、規則の紙の一番上のページが目に入った。

 大きく寮規則と書いてあって他の文字はぼんやりとしか読んでなかったけど、よく見たら名前が書いてある。


『ノア・様 ご入学おめでとうございます』


 嘘でしょ。

 別に王族とかじゃないから、血の争いが過激になりすぎるってことはフィオラさんの気配からないと思うけど。

 簡単に部外者の名前不明な人間に自分の家の名前を与えちゃ駄目でしょ。いや、でも場所によっては遠縁で同じということもあると聞いたことがある。つまりそういう扱いなのか。

 駄目だ。こればっかりは本人にどこかのタイミングで聞かないといけない。

 そして、一番の問題はこれで登録されているということは、ボクが自分で名乗らなくても寮生活が学園にいけばいずれバレる。その時にどの立ち場の人間として振る舞えばいいのか。

 先行きが不安になってきた。

 その後、少し時間が過ぎた時再び扉がノックされる。

 扉を開くとアリアさんがいた。


「夕ご飯の時間だけど、ノアさんはどうします?」

「えっと、どう……とは」

「名家の子だと決まった食事をっていうこともあるから、寮に入ってすぐの頃は念の為確認するようにしているの」

「あー……いえ、寮のご飯で大丈夫です」

「ふふっ。わかったわ。じゃあ、食堂へ移動してくれるかしら。場所はこの通路を真っ直ぐ入り口の方に戻ったところにある両開きの大扉よ」

「わかりました」


 ボクがそう言うとアリアさんは向かいのルージュさんの部屋の前にいってノックする。全員に対してやっていくのか……と思ったけど、何気なく横をを見ると同じように奥の部屋をノックしてる人がいた。さすがにひとりじゃないか。

 ボクは一度部屋に入って。念の為に鏡で服と髪が乱れてないかを確認してから改めて部屋を出る。


「あ、ノアさん! 一緒に行きましょう!」

「う……ん――ちょっ!?」


 部屋を出て食堂の方向へ歩きだしてすぐにルージュさんの声が聞こえてきた。まあ、ボクの次に伝えられたしおかしいことじゃない。ただ、ボクが振り向くよりさきに背中側から柔らかかったり色んな思考を乱す匂いが襲ってきた。

 そして右肩の方からルージュさんの顔が出てくる。超至近距離でボクは思わず石化したと言わんばかりに固まった。


「どうかいたしましたか?」

「ち、ちかいです」

「女の子同士ですしよいではありませんか。いえ、まあたしかにこの国ですと同性での婚姻も選択肢には入りますが」


 片方の性の人間がとても強い故の独特な婚姻感があるのも事実だが、それではない。

 たしかに同性同士で子供を作ることのできる信仰の力を持つ神様の教会はこの国に大きい勢力として存在してるけど、それも今は関係ない。

 単純にボクが元男であり、男に戻るという目的がある以上は女性と女性の恋愛関係なしのスキンシップにはある程度抵抗しておかなくちゃいけないのだ。

 じゃないと戻った時に同じ感覚で接して捕まってしまいかねない。

 でも、そんな理由を赤裸々に伝えることもできないし、言っても信じてもらえないだろうから。

 単純にしか答えられない。


「そういう問題じゃないです」

「違いました?」

「はい。とりあえずその、距離をとれまではいいませんから。その抱きしめるぐらいにギュッてするのだけ緩めてもらえると」


 背中にあたってる感触がいやでも意識させてく。自分にも今はあるけど、やっぱり他人の物と自分の物では、勝手が違いすぎる。

 ルージュさんは微妙に不服そうな顔をしながらもひとまず密着状態から離れてくれた。


「ルージュさん。いつもこうなんですか?」

「アミリアでいいですわ! まあ、年の近いメイド相手にはわりとこうでしたが」

「……アミリアさんは、もう少しスキンシップをやる相手は選んだほうがいいです」

「わたくしは選んでますわよ」

「いや、だってボクにやってきてる時点で」

「わたくしは模擬戦をした時からあなたは信頼における方だと判断しています。それに今こうしてわざわざわたくしに注意してくれるのですから。その考えは間違ってないと思っていますわ」

「…………」


 そんな裏も全く感じさせないで、真っ直ぐに気持ちを伝えられてしまうと何も言えなくなる。


「そ、そうですか」

「はい!」

「……食堂。とりあえず行きましょうか」

「そうですわね」


 その後、自然と二人で食堂まで向かうことになった。

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