ガールズ・アビリティ〜複雑だけど女のボクはすごいらしい〜
Yuyu*/柚ゆっき
女にされた!?
「わたくしの力。この入学試験で皆さんに魅せて差し上げますわ! な~はっはっは!」
ポニーテールで真っ赤な髪の女子がそう高笑いしている。
それに対するボクは、数日前まで女性の方が強いこの国の底辺の男の一人だったはずなのに。女になってお嬢様学園の入学試験を受けているのか。
自分で自分に疑問を持ってしまっていた。
「それでは両者構え! バトルスタート!!」
疑問が段々とこの状況の元凶への愚痴に変わりそうになってきた時、試験官が高らかに叫んだ。
瞬間――赤髪の子はこちらへと急接近してくる。
「わたくしの剣と技。この一撃でフィナーレになってはアピールにならないのでやめてくださいね!!」
目の前まで迫られた所で、彼女は剣を振り上げてそのままこちらに斬りかかってきた。
そして剣から溢れ出てると言わんばかりの赤紫の魔力は、言葉とは真逆に一撃でやりにきてるとしか思えない。これはボクが相手だからじゃないよね? 誰相手でもこれだったんだよね?
そんなやばい攻撃だが。ボクは今の体に慣れておらず回避できる自信はない。
反射的に手に持たされた槍斧を振り上げて剣を受け止めようとする。
次の瞬間――ガキンッという音と共にボクの目の前で剣は停止した。
――あれ、おかしいな。止められるとは思ってなかったんだけど。というか力負けすると思ってたんだけど。
「な、なかなか、やりますわね」
彼女はボクに止められたかと思うとすぐに距離をとってそう言ってきた。
そういえば何かボクを女にした元凶が「あなたはこの武器との相性が最高よ!」とか言ってたな。あれは本当だったのか。
ボクは改めて槍斧を軽く素振りしてみる。
感覚的になら全く使えないこともなさそうだ。
「ですが、一撃を止めただけのこと。この学園に入りわたくしと勉学や訓練をともにするのならばそうでなくては! な~っはっはっごほっ。んんっ」
高笑いしすぎてむせてる。見た目や動きの気品とかにはお嬢様感溢れてるけど性格の根本はかなり明るい人なんじゃないだろうか。
いや、まあそんなこと考えてる場合じゃない。少なくとも戦闘における経験の差。これだけは才能だけで埋めるには限度があるはず。そう思う。
というかそうでなくては底辺世界で生きてきたボクの今までの人生がまるで努力や経験不足でそうなったと思ってしまうからそうあってくれ。
「まだまだはじまったばかり。次いきますわよ!」
彼女はどうやらすぐに意識を切り替えたらしい。
ただ、ボクも気持ちを切り替えられそうだ。全く通じないならもう諦める気だったけど、可能性が見えた。それなら男に戻るためには入学しなくちゃいけないんだ。
その後は防戦一方ではあったが、何回かは攻撃を当てることができた。
ただ、相手との力量差がありすぎることも自覚する。彼女は剣技のみならず魔法の才能も幾分は持っているらしく、距離を維持されたらもうどうしようもない。
最終的にボクの疲労からの隙に一撃をもらって模擬戦は終了。つまり負けた。
このまま一生女になってしまうのか。正直、中途半端な立ち場持つぐらいなら底辺でよかった。
倒れたままで心と真逆の快晴の空を見ていると視界には先程の彼女が入ってきた。
「あなたなかなかやりますわね」
そう言って手を差し出してくる。ボクは手を借りつつひとまず起き上がった。
「そ、そうですか?」
「わたくしの剣をあれだけ受け流すなんて中々ですわ。一緒に学べることを楽しみにしています」
「へ?」
「どうかいたしましたか?」
「いやだって、ボクは負けたわけで」
「何をいっていますの。模擬戦という形式をとっているから勝ち負けこそ決まりますが、本質は本人の資質や現状を見ること。入学できるかどうかには関係ありません」
「……あぁ~」
言われてみればそうか。考えればわかることだった。
勝ち負けというものが付属してしまうとどうしても、思考がそっちにいく。
でも、そうか。まだチャンスは有るのか。
「次が始まるので控室に戻りましょう」
「う、うん」
ボクは彼女を追いかけるようにフィールドから出ていった。
頭のなかでは女にされたあの日を思い出しながら――。
* * *
そもそもの始まりは数日前までさかのぼる。
大陸の中でも異彩を放つ女性国家の首都――聖都フィーア。
国のシンボルとなる首都として申し分のない発展を遂げてきたが、大きくなれば目の届かない範囲も自ずとできてくる。
ボクが生きていたのはそんな場所だった。
「あぁ~もうやってねえっていってるじゃん!」
「そんな言い訳通用するわけねえだろ!」
「そもそもあんたらが話をちゃんと聞いてるのなんてみたことないっつーの!!」
ナイフを持ってくるごろつき。そして質素で薄汚れた服を着た逃げる低身長のボク。
ボクが金を盗んだなんて因縁をつけて追いかけてくるけど、ボクは知っている。
あいつらは金に困ると15歳前後の子供を捕まえては闇の奴隷市に売り出して生活している、この地域でも一番のロクでなしだ。
現在のボクは15歳で親もいない。攫うには都合がいいと狙ってきたんだろ。
そんでもって、周りにいるのも貧乏かロクでなしだからボクのことを助けようとなんてするはずもない。
そんな変わらない日常を送っている時だった。
逃げている途中、坂を下る際に足を踏み外して盛大に転げ落ちる。
どうにか止まることはできたが、ごろつきがボクに追いついてしまった。
「おら、こっちこいガキ」
「ほんと、よくそんなんで生きてけるね」
「あぁ! うっせぇ!」
ごろつきはそう言って腕を振り上げる。ボクはそのまま殴られると思い目を閉じて歯を食いしばった。
だが、痛みは中々こなく代わりにごろつきのなにかに怯えるような声が耳に入ってくる。
ゆっくりと目を開けると、綺麗な鎧をきた男が振り上げたごろつきの腕を掴んでいる。
よく鎧を見ると、そこには騎士団の紋章が刻まれていた。
「何をしている?」
「な、なんで騎士様がこんなところに」
「野暮用でな……」
「そ、そうでしたか」
ごろつきはそう言うと一度ボクの方を恨めしそう睨むとその場から逃げるように去っていった。
無理もない。女性の強いこの国で騎士になれる男といえば、どれほどの実力者なのかは想像したとしてもその上をいく程だろう。
ただ、ボクもなんでこんなところにいるのかという点には疑問が残る。
「少年。大丈夫か?」
騎士はごろつきが去ったのを見るとボクの方にそう手を差し出してくる。ボクはその手を借りて立ち上がる。
「ありがとうございます……」
「おや……血がでているな」
「へ?」
騎士がそういった時に、初めて膝から血がでているのに気がついた。ただ、この程度の擦り傷ならもはや慣れっこだ。
「大丈夫です。これくらいならすぐ治りますよ」
「いや駄目だ。ちょっとこっちにこい」
「へ?」
騎士はボクの腕を掴むと、路地裏へとつれていく。ボクは抵抗する力もなく引っ張られる。
そしてそこに辿り着くとこれまた上品な服装をした金髪の女性が立っていた。
「お嬢様。連れてまいりました」
「……ん?」
連れてまいりました?
つまり、この騎士もボクのことを意図的にここに連れてきたってこと?
いや、おかしいだろ。なんでそんなことをするんだ。ますますわからないぞ。
「ふむ……やはり、持ち主ね」
「では」
「えぇ、お願いするわ」
二人が何か不穏な雰囲気で会話をしていて、バレないように逃げる方法はないかと考え始めた瞬間。
後ろから何かで殴られた感覚が襲いかかってくると、すぐにボクは意識を失った。
その後、起きるまでの間のことは覚えていない。
ただ、ボクを連れて行く何かがあるってことは会話からわかったけど。まさか、こんなことになるなんてその時は思っていなかった。
* * *
意識を失ってからどれだけたっただろう。
重い瞼をどうにか開くと見たこともない天井が広がっている。
「うんっ!?」
思わず、勢いよく上半身を起き上がらせて周囲を見ると、これまた見覚えのない部屋だ。高そうな調度品やら家具が並んでいる。さしずめ貴族の家といったところか。
入ったことないから想像でしかないけど。
まあただ、気絶してたボクはそのまま運ばれてベッドで寝かされていたということだろう。
問題はこの部屋にまったくもって見覚えがないということだけど。
「ここどこだろう。家具の装飾とかで頭いい人はわかるのかもしれないけど……うん?」
そうして部屋の中を見ている途中で、視線的に下に向いた時に何かが見えた。
思わず視線を戻すと自分が着ているであろう服の中にふたつの肌色塊がある。これはいわゆる女性の胸というやつじゃないだろうか。
まあスラムでみたことのある傷ついたりしているのとは全く別で綺麗で張りがある健康な胸って感じだけど。サイズ的にはほどほどかな。
でも、なんでボクが下を向いたら胸があるんだろう。
「…………ま、まさかな」
ひとつの可能性に辿り着いた。しかし、それは普通はありえない話だ。実際に起きたら意味がわからない話でもある。
だけど、辿り着いてしまったそのひとつの可能性をなかったことにするために、ボクは自分の手でその胸を下から持ち上げてみた。
「う、うそだ。いや、嘘だよ」
頭で理解したくなくても本能と触覚が理解させてくる。この胸がボクの体の一部であると。
そのまま慌てて腕や顔を触ってみるけど、なんにもわからない。ただ、スラムで傷ついて微妙な荒れた肌が、かなり滑らかになっていることはわかる。
そして最後の砦とも言える男性の象徴のあるところに手を動かした。
――そしてその消失が確認された。
「ま、まってまって。夢だよ……そういえば鏡。そうだ鏡があるんだ。鏡を見ればボクがボクであることなんてわかるはずだ」
自分でも意味のわからないことを口走ってることは理解してる。でもそうしないと認めてしまうことになる気がした。
ボクはベッドからワタワタと飛び出して部屋にあった全身鏡の前に移動する。
そして答えがわかった。
鏡に映っているのは水色の少し長い髪の少女。ボクと同じ動きをする少女。ボクと同じ右目の下に泣きぼくろのある少女。
状況からして答えはひとつしかない。ボクは女になっている!
でもなんでだ! 別に男のままでよかったのに。この国で過ごしていく以上は男のほうが負けたとしても男だからという理由が使えてよかったのに!
ボクは色々と頭が混乱してその場に膝から崩れ落ちる。その結果、鏡には女の子の座り方をするボクである少女が映り続けている。男のボクは何処かに消えてしまった。
いやまだだ。実は透明になっただけでボクの後ろに女性がいるんじゃないか。
現実を受け入れないように後ろを振り向いた時、部屋の扉から見覚えのある女性が入ってきて目が合った。
「あら、起きたのね」
「……あっ、あの時の!」
スラムで騎士がお嬢様と呼んでいた女だ。あのときは影で表情とかは見えなかったけど、雰囲気が彼女のそれと一緒だ。
「ちょ、ちょっと聞きたいんだけど。ボクはあれからどうなった? というかここどこ? ていうか、攫ったのはあなたなの? それともボクは別の何者かに気絶させられたのか?」
「次からは質問はゆっくり一つずつにして頂戴。とりあえずそれらについては私が攫って私の部下が気絶させて、あなたを女にしたのも私よ」
「……はあ!? いや、なんのために!?」
「あなたに才能を感じたから。男では開花できない才能を」
「……意味がわからないし。仮にそうだとしてもなんでわざわざ」
「せっかく見つけた才能の可能性を見過ごすなんて私にはできなかった。それに、あなたみたいな存在がいたほうが周りのためにもなると考えた」
「だからって……ボクの意志はどこに」
「それについてはゆっくり話たいから。もしこのまま動けるなら別の部屋に移動して話しましょう。お腹も空いてるでしょ?」
そう言われた瞬間に、ボクのお腹は図星と言わんばかりにキューと小さい音をだした。
「わ、わかった。ひとまず話を聞かせてもらおう」
「素直な子は好きよ」
何が何だか分からないけど、男であれ女であれ空腹は避けられそうにないと思った。
そして彼女の言葉で改めて理解するしかない――ボクは女にされた。
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