第31話 足折り
冒険者ギルドの受付嬢クスカが大声を出したので、冒険者達が集まって来た。
ハルトはジト目でクスカを見る。
(ほらぁ、言わんこっちゃない)
クスカは流石に自分が大失態をしたことに気付くと……。
「すいません、すいません。ハルトさんの情報をみんなに公表する気など、無かったのです。ただ驚いて……」
「はぁ、結果として公表しちゃったんだから、そんな気が有ろうが無かろうが同じですね」
「えーん、私、首になっちゃうよぉ」
「おいおい、こいつクスカちゃんを泣かせてるぜ」
「何したぁ! おめぇ! 俺達のクスカちゃんを泣かせやがってぇ」
ハルトはクスカに説明して欲しいと、クスカを見たが、泣き崩れてこっちを見ていない。
「はぁ……」
その内、冒険者の1人がおかしな事を言い始めた。
「こいつEランクの癖に、常設依頼のモンスターの魔石を30個も納入しやがったぞ」
「俺も見たぞ、おまけにマンティコアの魔石も持ってた」
「何! 俺達が今日、足を棒のようにして探し回ったのに、1匹も見つけられなかったのに……」
「てめぇ、どんなインチキしやがったぁ! あ゛ぁ!」
ハルトの胸ぐらを掴む冒険者。
ハルトはクスカに、
「ギルド内で暴力を振るっても良いんですかー。」と大声で聞く。
「冒険者同士の争いは関知しません!」
クスカは気が動転していた。
この発言は間違っており、ギルド内で暴力を振るうと罰則がある。
正確にはギルド外の冒険者同士の争いを、ギルドは関知しないのだ。
それを知っているが、虫の居所が悪い冒険者は、クスカの言葉に乗ってしまった。
「そうだ! ギルドは関知しないんだ。どれ、俺がお前をやっつけて、インチキの中身を白状させてやる。俺に負けたら白状しろよ。がっはっは」
「つまり、暴力を振るってもお咎め無しで、勝った方が正しいと言う事だな?」
「がっはっは、そう言う事だ。今更謝っても遅──」
ドゴッ!
バギッ!
「うがっ」
ハルトはゲイ・ボルグの石突きを突き落とし、胸ぐらを掴んでいた男の足を折った。
「あぅ……」
足を押さえ蹲る男。
「てめぇ、何しやがったぁ!」
「畜生! 今日は依頼未達成でイライラしてんだぁ!」
(そんなの知らんがなぁ)
(そうだにゃ、ハルトやっちゃっていいにゃ)
キュウは争いの邪魔をしないように、ハルトの頭上高くふよふよと飛び上がった。
周りの冒険者が掴み掛かって来た。
「待ちなさい! 1人の冒険者に……?」
女性の大声を無視して、ハルトは石突きで胸を打ち、突き飛ばしていく。
バギッ!ドガッ!
後ろの男も一緒に飛ばされて転がる。
ハルトは周りに来た冒険者達を、有無を言わさず全員突き飛ばした。
一瞬の出来事だった。
CランクやDランクの冒険者が殆どだが、Bランクの冒険者も中に居た。
しかし誰もハルトの突きを躱せず、それどころか、見えてすらいなかった。
「ちょっとぉ。止めたのに──?」
女性はハルトの前に並んでたスヴィだった。
バギッ!
「ぐあっ」
ハルトは倒れた男のところに歩いていき、石突きで足を折る。
バギッ!
「な、何やってんの?」
バギッ!
「ん? 取り敢えず足を折っている」
バギッ!
「な、何でそんな事を?」
バギッ!
「いや、殺した訳じゃ無いから立ち上がって、また襲って来たら面倒でしょ、戦場では足を斬るが当たり前の処置だぞ。敵の兵量を消費するし、移動速度が極端に落ちる。今回は手加減して折るだけにしているよ」
バギッ!
「ひぃ」
バギッ!
「て、てめぇ」
ハルトの言葉を聞いて、1人がヨロヨロ立ち上がり、剣を抜いて襲って来た。
バギッ!
ハルトは男の腰に石突きで突き込んだ。
「ね! こんな風に襲って来たら、腰の骨を折っちゃうよ」
バギッ!
スヴィは固まった。こんな男見た事もない。
バギッ!
倒れている男達は、ハルトの言葉を聞いて背筋が凍る。
バギッ!
冒険者は「宵越しの金は持たねぇ」と言って飲んだくれる男が多い。要はその日暮らしの者が多いのだ。足の骨を折られると、1ヶ月は仕事が出来ない。腰の骨なら冒険者廃業だ。
バギッ!
そんなリスクを背負って襲った訳じゃない。
バギッ!
「ひぃ、ごめん謝るよ、許してくれ」
バギッ!
「ダメだね。こんな大勢で俺を襲ったんだ。俺をボロボロにする気だったんだろう?」
バギッ!
クスカは泣くのも忘れて唖然として、その様子を眺めていた。
自分の一言がこの惨事を起こした。
それは間違いない。
ギルド内にいた冒険者の半数は、足を折られて呻いていた。
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