第2話 芦屋道満

「おお!成功したぞ。ドンギュー!」


起死回生の手として実施した禁呪である、最強勇者を召喚する儀式が成功した。


しかし召喚した勇者は何の因果か最凶の陰陽師である芦屋道満ドーマンだった。


ドーマンは漆黒の狩衣かりぎぬを着て、黒い口髭顎髭を生やしたの痩身の壮年で頭には烏帽子を付けている。


※狩衣は平安時代の公家の普段着であり、元々は狩りの際に着用した、当時では活動的な衣服。


道満の目の前に修道服に身を包む痩身の老人であるヤマツ枢機卿と、小太りで軍服を着たドンギュウー将軍が立っていた。


「勇者様、この世界にお出でいただき有難う御座います」


ヤマツ枢機卿がドーマンに話し掛けるが、ドーマンは無視する。


その後も何やらヤマツ枢機卿が喋っているが、ドーマンは聞く気が無い。


ドーマンは戸惑っていた。

辺りを見回すと見た事が無い作りの広間で、足下には巨大な召喚の魔方陣が描かれており、修道服の男が4人、東西南北の位置に立っていた。


そしてドーマンには見馴れない軍服を着て、銃を持った兵士が周りを囲んでいる。


ドーマンはヤマツ枢機卿の話を聞き流し、白い部屋で出会った神と名乗る存在との話を思い出す。


神と申す者は、何やらスキルと言う力をくれるのだと言う。そして表示された一覧の中から一つ選べと言われた、その中で……。


これだ!


ドーマンが選択したスキルは「百鬼夜行」。任意の妖怪を召喚し使役出来る力。


後1歩で安倍晴明に後れを取り、命を落としたドーマンは、あの時この力があれば天下を我が物に出来たのに、と思った程強力なスキル。


ありとあらゆる妖怪を召喚し、使役出来ると言う事は、邪悪で強大な様々な妖怪を手足として使えるのだ。


思わず邪悪な笑みが浮かぶドーマン。


「聞いておるのかぁ!」


ヤマツ枢機卿が、明らかに話の聞いていないドーマンに対して、ついに怒り出して叫んだ。


ツドイ帝国の軍は迫って来ている。

時間が無いのだ。


一刻も早く勇者を参戦させたいので、勇者を騙して隷属の腕輪をつけないといけないのだ。


「聞いておらん。聞く必要も無い」

ドーマンはまるで虫ケラを見るような、冷ややかな目でヤマツ枢機卿を見下す。


「うぬぬ、勇者召喚には成功したが、とんだ無礼者を召喚してしまった様だ」

ヤマツ枢機卿はドンギュー将軍に話掛ける。


「言う事を聞かない馬鹿は用が無い。痛い目に合わせて隷属させるぞ」

ドンギュー将軍は、両脇の兵達に目で合図をした。


「おいおい、隷属の話はするな。奴に感ずかれるだろう」

ヤマツ枢機卿がドンギュー将軍を戒めるが、ドンギュー将軍は取り合わず。


「ふん、召喚したばかりの勇者は、何も分からん。強制的に拘束しちまえば良いんだ。連れて来い」

兵達に指示した。


「無礼者!こっちに来い!」

2人の兵はドーマンに迫り、拘束しようと掴み掛かる。


ドーマンは邪悪な笑みを浮かべると、和紙で出来た人型の式札を2枚、懐から出した。


「出でよ、式鬼しき!」

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