第48話 愛莉の気持ち
シヴを私に紹介して、反応に微笑みながらアイリが言葉を続けた。
「悠里絵は、この世界では新しい神、モイラと呼ばれているの」
(モイラね……。ええ?)
「ええっ! 私がモイラだって? だって今はフレイヤの姿でしょ?」
フフ、と声にしたアイリ。
「モイラは新しい神になるためにフレイヤを殺すことを考えた。大好きな人を殺すことで、耐えがたい心の葛藤、後悔と満足を得るために。けれども、フレイヤを想う気持ちが強すぎて行動に移れなかった。だから事前に自分を半身に分けたの。フレイヤを愛するモイラ、純朴なその心は、十二次元下の現代へ落ち、そして悠里絵へと生まれ変わった」
私はあまりの事に声も出せずに、アイリの言葉を聞いていた。
「悠里絵、あなたに生まれ代わったモイラは、まったく新しい道を歩んでいく筈だった。でもね、全てを完全に断ち切り事は出来なかった。モイラに剥ぎ取られた、フレイヤのエーテルは、あなたに受け止められた。それは偶然じゃなくて、フレイヤを慕うあなたが起こした奇跡」
私はアイリの言葉をなんとか理解しようと努力していた。何故なら、私がモイラの半身で有る事を、私の心が理屈なく受け入れているからだった。
「私はモイラを消去しようとしたわ。それも見越して、モイラは準備をしていた。既に、私とモイラの識別番号が入れ替えてあった。私はモイラを消去しようと命令を出し、自分で自分を消してしまった」
「消された? アイリはなぜ助かったの? どうして現代で愛莉になったの?」
少し落ち着いてきた私は、胸にわく疑問を声に出した。
「フレイヤが殺されたとき、そのエーテルは、繋がった別次元である現代へ飛んだ。もう帰れないと思ったフレイヤは、それまでの定められた未来を追うのではなく、新しい未来を生きることにした。自分が持っていた神の記憶を捨てて、人間として生きることを選んだ。その時にあなた、悠里絵と融合したの。でも忘れられるはずないのに。自分の故郷、この艦マスティマのこと。捨てる事が出来なかった、フレイヤのその想いが”Stars Logbook”となった」
私が独りでいるのを好んだこと。
でもどこかで凄く淋しかったこと。
その理由が分かった気がする。
そして、その孤独と淋しさを紛らわすかのように、いつも側にいてくれた愛莉。
なぜか涙が出てきた。心が締めつけられる。この感情は? なぜこんなに心が苦しいの? そっか、愛莉の心が分かった私は口を開いた。
「アイリは私が淋しくないように、私の側に居てくれたのね。現代の私の側に愛莉として」
副司令官アイリである、親友の愛莉が頷いた。
「私はモイラのことが好きだった。姉妹の様にフレイヤに仕え、苦しいときも楽しいときも一緒だった。フレイヤから名前を貰って、人としての感情を持ったとき、苦しくて悲しくて正常な状況を保てなかった。それでも私は耐えたの。このマスティマに残ってフレイヤの側に居たかったから。でも、モイラは耐えられなかった。そして神の力を望んだ」
愛莉は、私の肩を抱いて言った。
「愛莉は幸せだった。あなたと一緒に居られたから。妹であるモイラとフレイヤの心に触れられて生きられたから」
私はひとりじゃなかった。
いつも側に私を想ってくれる人居てくれたんだ。
涙が溢れて止まらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます