ライフリンク~なり損ない勇者と隻角の魔王

ガミル

プロローグ

 ――少年は夢を見ていた。小さい頃からよく見る夢だ。大きな広葉樹に寄りかけた一人の幼い女の子が木漏れ日の中で悲痛な声で泣いている。

 彼はその子が何故泣いているのか分からない。だけど、何処か他人事ではない気がして、彼女の元に歩み寄ろうとする。

 

『なんで泣いているの?泣かないで大丈夫だよ、おれがいるから……』


 手を指し伸ばす。けれど、その手に彼女が気付くことはない。まるでその手がそこに存在していないかのように。そうこれまでは……。


「――やっと、見つけた」


 差し出された手に少女の手が重ねられる。彼ははっとして彼女の方を見る。


 しかし、ついに彼女の顔を目にする前に残酷な現実に戻されることになった。



***



「おら起きろ。さっさと歩けクズ」


 パンパンに膨れ上がった顔面に火で焙られた鉄棒が押し当てられた。その衝撃で意識が覚醒し青年は跳ね起きる。


「――”元”勇者リドラスタ・ソーナバイン。最後に何か言い残すことはないか?」


「……くたばれ、クソ野郎」


 彼の精一杯の悪態に気にする素振りも見せず、処刑人は感情が籠っていない眸をぶら下げたまま、大罪人を抹殺する準備を整えていく。

 両腕を封魔術式シールが刻まれた手枷で縛られ、両足も同じ様に縛られていく。そして十字を模した刑具に繋げられた。

 掌に銀の杭を打ち込まれたが、皮肉なことに肉体の方は麻痺性の高い毒がまだ効いている――もしくは痛覚が分からなくなるほど心が壊れている――のか痛みはさほど感じはしなかった。

 処刑人が青年の体を串刺しにするタイミングを見計らうかのように胴体に大槍を押し当てた。


 (おれは、こんなところで終わるのか。だったらおれは一体なんの為に生まれてきたんだ……)


 彼の自問自答も空しく、青年を絶命させるべく大槍は突き出された。

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