ひとりキャンパー図鑑

海苔缶

File1 倉見なつみ プロローグ

 スキレットの上で食欲をそそる音と匂いを発しているウィンナー達をフォークで転がすとプシュッと軽快な音と共に肉汁が溢れ出てきた。

「よしよし、もう少しだ。君達の肉汁はブロッコリーに絡めて美味しく頂いてやろう」

 一口サイズにカットされたブロッコリーにスパイスソルトを振り掛けると、フォークを突き立てて肉汁を絡め取る。火傷をしないようにふぅふぅと息を吹きかけ、恥じらいもなく大口を開けパクリと頬張る。

「熱っ、けど美味しい」

 ブロッコリー独特の青臭さは振り掛けたスパイスソルトの黒コショウやらニンニクの香りに負けているのでなりを潜めている。そもそも冷凍ブロッコリーをスキレットに入れる前にメスティンで下茹でしているので匂いは殆ど感じない。もしゃもしゃした部分の柔らかい食感と歯ごたえのある茎の食感の組み合わせがクセになり、私はもう一つブロッコリーを頬張った。


 もう一度ウィンナー達をフォークで転がすと焦げが付いていたので、私は慌ててシングルバーナーの火力を弱めた。が、火力を弱め過ぎたせいか涼を運んできた風に火が消されてしまい、そのままガスを止めることにした。

 右手にミトンをはめて、スキレットをローテーブルに移す。天板がアルミ製なので熱いものをそのまま載せることができるが、買ったばかりなのでなんとなく鍋敷の上に置き直すことにした。

 スキレットの良いところは保温性が高いところだ。「君達は熱々のまま私に食べられることになる。ウィンナー冥利に尽きると思わないかね」と、フォークを突き立てる。

 ついつい一人キャンプだとくだらない独り言が増えてしまう気がするが、一人キャンプあるあるだと私は思っている。特にアルコールが入ると余計にである。

「そうだ、お前のせいだ」と缶のレモンサワーをクイっとやり、口の中をリセットしてウィンナーを迎え入れる準備を調える。


 キャンプ場に着く前に寄った道の駅で五本で500円もするウィンナーだから美味しくない訳がない。期待に胸膨らませ私はゆっくりとウィンナーを口へと運んだ。

 肉々しい食感の後に溢れだす肉汁は脂のバランスが絶妙だ。ハーブやブラックペッパーで脂がまろやかに仕上がっている。そして鼻に抜けていく燻製香が食欲をそそる。市販のウィンナーよりも少し大きいが、あっという間に一本目を平らげてしまった。

「高いだけのことはあるわ」


 ウィンナーを二本平らげたところでレモンサワーが無くなったのでウッドフレームのローチェアから立ち上がり、テント内に置き忘れていたクーラーボックスと赤いハリケーンランタンを回収する。

 ハリケーンランタンには虫除け効果のあるパラフィンオイルを入れて、ランタンスタンドに吊り下げる。本当に虫除け効果があるのかは怪しいところだけれど、前回のキャンプでは虫刺されが無かったので少なからず効果はあるのだろう。と、信じている。

 クーラーボックスから二本目のレモンサワーを取り出し、プシュッと開ける。

 誰にも気を使わずに好きな物を食べて、好きなお酒を飲む。やっぱりこの時間が一人キャンプ最大の楽しみだと私は思う。






 

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