傷だらけの翼にキスを

遊月奈喩多

第1話 ひとりで叫んでみても

 夢を見た。

 ケージが壊れていたのだろう、大切に育てていた小鳥が今にも部屋から飛び出していきそうになっていた。

 やめて、行かないで。

 外は危ないの、ここみたいにあなたに優しいだけの世界とは違うの、危ないから、それに――――


 私は、捕まえた小鳥の翼を……


  * * * * * * *


莉乃りの……?」

 その光景を見たとき、たぶん私の何かが崩れたのだと思う。今まで大地だと思っていた足下が、その実ただ水面に浮かんでいる頼りない小島でしかなかったことを思い知らされたようで、頼りない感覚。


 雨宮莉乃あまみや りの

 幼馴染みで、同い年なのにどこか頼りなくていつも私のあとを付いて回ってくるような子だった。それは大学に上がっても変わらなくて、今日だって私がバイトに行く関係で一緒に帰れないと言ったとき、『えぇ~』と小さい頃のように残念そうな顔をしていた。

 いつまでも成長しなくて、私がついてないと危なっかしさすら感じてしまうような女の子……それが雨宮 莉乃だった。進学を機に地元を離れることになったときもルームシェアすることにしたし、部屋での莉乃も幼い頃と変わらずちょっとしたことで一喜一憂してみせる素直な姿が魅力的な、可愛い子だった。


 けどバイトから帰るとき、アパートの前で、莉乃が誰かと抱き合っているのが見えてしまったのだ。何故か物陰に隠れてしまった私になんて全然気付かないで「えへへっ♪」と嬉しそうに笑って身体を離し、じゃあね、と明るく手を振ってその人を帰していた。

 照明に照らされた莉乃の頬は、どこか艶やかに赤くなっているように見えた。


 数分空けて帰ると、何食わぬ顔で「おかえり~」という声が聞こえて。

「お帰り、みお! バイトお疲れ様!」

「ただいま」

 あぁ、本当に莉乃の笑顔だけで全部疲れが吹き飛んでしまいそうなのに……今日はそんな風になれない。昨日のうちに作って冷蔵庫に入れておいた夕食も食べてないみたいで、それもいつもと違うところだった。


「莉乃、ご飯はいいの?」

「えっとね、あの……外で食べてきちゃって」

「誰と?」

「大学の友達と」

「ふーん、どんな人?」

「え? どんな……えっと、」

「首、痕付いてるよ」

「うそ!?」


 あぁ、やっぱりそういうこと、、、、、、してたんだ。まだ私に甘えっきりで、外のことなんてろくに知らないはずなのに、何してんの、本当に? 突然沸き上がった何か、、を、抑えられなくなっていた。

 必死になって鏡で首筋を確認している莉乃の手を掴んで引き寄せて、有無を言わさずキスをした。

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