3時間で世界を救え!~神様の手違いで滅亡寸前の異世界に召喚されました~

焼鯵くろみ

3時間

終わりの始まり

目の前に自分とうり二つな奴が立っていた。




「なんだお前は…ていうか俺は死んだはずじゃ!?」


「私は神だ、お前は選ばれた、生前とは別の世界を滅亡から救ってもらう」


「神様ってのはそんなマヌケずらなのか?」


「私には実体がない、お前の体をコピーして喋っている」


「世界を救ったらなにか報酬があるのか?」


「その世界に居住する権利を与えよう」




 俺は頭をかく。目の前のソレはまばたきすらせず、俺をジッと見つめている。




「なぁ…どうして俺はお前の言葉をホイホイ信じちまってんだ?」


「神の言葉は絶対だ、疑うことなどありえない」






「『世界を救う』か…具体的には何をすればいいんだ?」


「魔王を倒せ、お前は勇者として召喚される」


「いつまでに?」


「3年後だ」




 その瞬間、目の前が暗転した。






 残り3時間0分0秒






「うぅ…」


「おい大丈夫か」




 気付けばかび臭いベットの上で寝ており、毛むくじゃらのじいさんに顔を覗かれていた。


さてまずここは…




(ああああああああああ!しまったあああああああ!!)




 なんだこれは!?俺の声!?




「ぐああああああああぁぁ!!!なんだあああああぁ!?」


「なんじゃ!?幻覚をみとるのか!?ヒーナ!魔法でこいつをねむらせろ!」


(3年前じゃなくて3時間前に設定しちっまたああああぁぁ!!)


「はぁ!?3時間前!?」




 じいさんが鼓膜を引きちぎるような叫び声に耐え切れず暴れる俺を押さえつける。そこに足音がちかづいてくる。




「どうしたの?」


「急に暴れだしおった、やってくれ」




 こいつらには聞こえてないのか?ちかづいてきたのは若い女性のようだ。




(やばいやばいやばいやばいいいいいいいいぃぃ!!!ちくしょおおお)




 スピーカーをぶつ切りしたように突然叫び声は止んだ。


 若い女性が杖らしきものを振りかぶっている。




「スリープヒー…」


「待って待って!ストップストップ!大丈夫!もう大丈夫だから!!」




 じいさんと女性は顔を見合わせる。


 うぅ…なんだ…左手に違和感が…


 見るとそこには数字が刻まれていた。そしておそらく1秒ずつ数字が減っている。




2-58-49




「なんじゃこれは…見たことない魔法じゃ…」




 さっきの声はおそらく神の声、何故か俺は世界が滅んじまうまであと約3時間しかないことを理解している。


 まずい…どうすればいいのか…見当もつかない…ていうかあのテンションの変わりようは何なんだ。神ってのは思春期があるのか?


 そんなことよりも…俺の中の勝手な正義感が俺に行動を起こさせた。ベットから跳ね起き、家?の出口らしい扉を開けた。外の世界は一言でいうと、平原と青空だ。てっきり終焉っぽい紫色の空が広がっていると思っていたが…


 二人が追い付いてきた。




「いったいどうしたんじゃ」


「俺はいったいどうしてここに?」


「覚えとらんか?家裏の森の中でお前さんが倒れておったのをわしの孫がみつけたのじゃ」


「森で何をしてたの?」


「いやまぁ…アハハ…それより助けてくれてありがとう」


「どうも…」


「聞きたいんだけど、もうすぐ世界って滅ぶの?」


「へ?」




 じいさんは顔をしかめる。孫の方は目を丸くする。二人はしらないらしい。




「やっぱりまだ幻覚を…」


「街はどっちだ?」


「え?」


「だから街だよ」


「ああ…あっちの方角だが…」


「ありがとう、この恩は忘れないよ」




 俺はじいさんの指さす方向に走り出した。もうなりふり構っていられない。とにかく行動しなければ。時間がなさすぎる。




「おい待て!さっきから無茶苦茶じゃ!状況を説明してくれ!」


「俺も状況なんてわからない、でもここままじゃまずいことになる!」


「何を…」


「じゃあせめてこの杖を持って行って!必ず役に立つ!」


「ヒーナ!?」




 杖?思わず立ち止まる。




「やらなきゃいけないことがあるんでしょ!あなたに力をかしてあげたい!ねぇじいちゃん!」




「ヒーナ…分かった、くれてやれ、ただし、おぬしヒーナの気持ちを無駄にするんじゃないぞ」




 ヒーナは杖を投げ、俺はそれを危うくキャッチする。




「本当にありがとう!」




 再び走る。俺は手を振る、二人も手を振り返す。


 黄色の気分に浸るのも束の間、不思議な現象が始まった。握りしめた杖が白く光り始めたと思えば、俺自身も発光しだした。

 そして身体が突風のような速度になった。疲れも感じない。二人もすぐに見えなくなった。街まではどれくらいかわからないがこの速度感はどこえでも行けそうに思えてくる。驚きや不思議よりも快感がまさった。




 さて、この世界はやはりいわゆる剣と魔法のファンタジー異世界なのだろうか。先ほどまでで勇者やら魔王やら魔法とやらの単語が出てきたし、ヒーナたちの家も明らかに近代的ではない。そもそもなんで言葉が通じるのか。神がなんとかしてくれたのか?設定がどうたら言っていたしな。その設定の手違いのせいで今こんな目になっているのか…


 分からないことだらけだが、一番分からないのは自分自身だ。






 何をこんなにやる気になっているのか。






 俺は何かのために必死になれる人間か?馬鹿馬鹿しい。俺はネットで世の中は努力か才能か言い争っているような人間だ。成功者にも落ちこぼれにもなれないただの社会の歯車だ。そのはずだった。




 なのにどうして今さら全力で走っている。アホか俺は。中学のマラソン大会で友達と歩いていたじゃないか。周回差ですれ違った般若顔の陸上部を笑っていたじゃないか。




「くそっ!」




 それしか言えないことが、俺にますます自分が薄っぺらい人間だと自覚させる。




 左手を見やる。




 2-53-20




 俺の熱情は3時間はおろか、10分も続かないらしい。




 ………




 あの神にいいように洗脳されてたんだな。…もういいよ。




 俺もわらわられる




 もう止まろう






 両足のかかとを地面に着けると地面を20メートルほどえぐりようやく停止した。


 どうせ寿命が3時間ほど伸びただけだ。空を眺めながら死のう。


 そう思って顔をあげると目の前にありえないものが横たわっていた。いや、ファンタジーと聞いて真っ先に思い浮かびそうなものなのだが…






「どっ、ドラゴン!?」


「いいえ、ドラゴンではありません彼はワイバーンです」




 その巨大な背の上から声がした。


 和訳文のような返答には到底似合わない可愛らしい声。声の主は10歳ほどの少女だった。白い長髪、青い目、チャイナドレスで身体中にベルトをまきつけたような服装をしている。




「こんにちは勇者様、私はジャスティス・アーケルド、貴方の名前は何ですか?」




「タケノ…マサヨシだ…」




「マサヨシ様」










「世界はまだ、終わっていません」










 残り2時間52分19秒






















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