賢者との再会
やがて街灯に照らされ、声の主が姿を見せる。こげ茶色のローブを身に纏い、薄い白髪を綺麗に切り揃えた美少年。
なるほど……こいつも昔と変わっていないわけか。
「ユリスくんっ!」
「やぁ、アリス。久しぶりだね」
ユリス————賢者と呼ばれし少年。アリス達の友であり、仲間であり、魔王たる俺を倒さんとした少年。
アリスは、そんな少年を見るやすぐさま賢者の元に向かった。
「久しぶりだね、大きくなった⁉ お弟子さんは元気にしてる⁉」
「ははっ。ミリヤは元気だし、特段僕は大きくなってないよ————アリスは、転生したのに姿があまり変わってないね。勇者だった頃と年齢が一緒だったからかな?」
賢者は笑う。友と再会できて嬉しいのか、声に抑揚が篭っていた。
「ユリス……どうしてここに?」
一方でセシリアは、仲間である賢者の登場に目を見開いて驚いていた。
「うん? それは、君達が僕達の世界に戻ろうとしていたからねーーーーここら辺で介入しようと思ってさ」
「どうしてそれを……?」
「忘れたのセシリア? 僕は『千里眼』の使い手だよ? ありとあらゆる事柄を見通す力がある。当然、この世界での出来事も知っているし、何ならアリスや魔王が生きていることも、セシリアが王国に黙って転移してきたことも、君達がこの場で争っていたことも知っているさ」
「……だからあなたはアリスが死んでものうのうとしていたんですね」
なんと便利な力なんだ。欲しい。願う事なら今すぐ欲しい。
「転移の方法も知ってたんだね~!」
「あぁ、転移の方法もセシリアを見て覚えたし、僕は彼女より魔力があるからこの世界に来ることも容易だったよ」
はしゃぐアリスと軽くハイタッチをして、賢者は旧友との再会に喜んでいた。
しかしまぁ……なんというか、やっぱり仲がいいんだなこいつらは。
久しぶりに会ったからなのか、アリスはセシリアが来た時と同じくらい嬉しそうにはしゃいでいるし、賢者もその口元が綻んでいる。
「それで、向こうの世界に行く必要がないってのはどういう話だ?」
再会を喜んでいるアリス達に割り込むように声をかける。
「ん?あぁ……そうだね。そう言えば、そういう話だった」
再会を喜ぶのは分かるけどさ?それは一番大事な話なんだぜい賢者?
こちとら「今から助けに行こう!」って話で締めくくったばかりだと言うのに。
「そうですよユリス。私達が戻らなければ、厄災に立ち向かうことができません。それなのに戻るなと言うのはーーーー」
「言葉の通り、君達は戻らなくていい。女神の神託を僕は無視しろって言ったんだ」
問いかけるセシリアに賢者はピシャリと言い放つ。その所為で、セシリアは怪訝そうな顔をしてしまった。
「おいおい、それなら厄災はどうするんだよ?アリスがいないと不味いって話だろ?」
俺もセシリアと同じく訝しむ顔で賢者に尋ねる。
セシリアの話では、勇者を連れ戻さないと人類が危ないらしい。だからこそ、勇者を連れ戻せと神託であったはずなのに、賢者は同じ人類であるにもかかわらず、いきなり現れてそんな事を言ったのだろうか?
「そうだね……千里眼で少し先の未来を見たけどーーーー『厄災』は必ず起こる。それも、勇者がいないと倒せるか分からない強大な『魔物』」
「だったらーーーー」
「ーーーーでもね」
アリスが紡ぐ言葉を賢者が遮る。
「これはこちらの世界の人間の話だ。ここの住民で今を幸せに謳歌しているアリスには関係のない話なんだよ。それに、僕達人類もそんなに弱い人間じゃない。女神や————セシリアが思っている以上に強い生き物だよ。だから、今回の厄災は僕達の方でなんとかするから……君達が戻る必要なんてないんだ」
だからもう大丈夫だよと、賢者は俺達に優しくほほ笑んだ。
アリスがいれば厄災は退けれる可能性は格段に上がる。それでも、勇者の役目を終えた少女に剣を握らせるほど、人間も弱くない。だからこのまま幸せに過ごして欲しい。
賢者の一言が、耳を傾けていた俺達の胸に染みた。
「いいのユリスくん? 別に私は大丈夫なんだよ?」
「いや、アリスはこれからもそこの魔王と一緒にこの世界で過ごせばいい。君は気にしないで、この世界を謳歌しなよ。魔王も、それでいいだろう?」
心配するアリスに再び微笑み、言葉のボールを俺に投げかける。
ははっ、なんとも逞しいじゃないか人類は。これから起こる厄災に自分達だけで立ち向かうなんて————いいだろう。
「あぁ、お前達がそう決断するのであれば俺は構わない。アリスがこの世界で幸せに過ごせるように支えてやるさ」
「……ありがとう」
賢者は深く頭を下げる。
下げる必要なんてなかったのに。アリスを幸にするなんて当たり前の話なんだから。
「それと……セシリア」
賢者は頭を上げると、体の向きを変えセシリアに向き直る。
「セシリアも、この世界で過ごすといいよ。教会には僕から話を通しておくから、この世界で普通の女の子として過ごすんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます