帰ってきて、頭を撫でられる
「ただいまー」
玄関から、そんな明るい声が聞こえてくる。
パタパタとした音が近づいてくると、リビングのドアから銀髪の愛らしい少女が現れた。
「……おぉ、おかえり」
「……おかえりなさいませ」
アリスが現れると、俺とセシリアは力のない声でアリスを迎える。
「どうしたの二人とも? プリンみたいにぐでーってして?」
アリスは、ソファーの上でぐったりとしている俺とセシリアを見て首を傾げる。
例えと疑問が妙に可愛らしかった。お兄ちゃんがご褒美に飴ちゃんをあげよう。
「……いえ、色々と疲れただけですから」
「あぁ……ちょっと二人でな……」
本当に今日は疲れた。
迷子の子を無事親子の元まで連れて行き、感謝され「はい終わりー」って思ったが束の間、次は重たい荷物を運ぶおばさんを駅まで連れて行き、再び買い物に戻れば、今度はお兄さんの無くした財布を探す手伝い————ふざけんな、と。
良くもまぁ、こんなに人助けをしたものだ。主にセシリアが首を突っ込んだだけなんだが。
その結果、碌に買い物もできず帰宅する羽目になってしまった。
「セシリア……善行も程々にしろや」
「……性分なんです」
なんとも人に迷惑を与える性分なのか?
聖女というのも、中々めんどくさいな。
「アリス……ごめん、今から夕飯作るから、待っててくれ」
「ううん、大丈夫だよ! クロちゃんは無理せずゆっくり休んでよ……お疲れ様」
アリスはカバンを置き、俺の元まで近づくと、徐に俺の頭を撫で始めた。
「どうしたアリス?」
「ううん……」
首を振り、何でもないと言い、そして優しい笑みで俺に向かって呟いた
「……ありがとうね、クロちゃん」
「俺、アリスにお礼を言われるようなことしたっけ?」
全くをもって記憶にない。特に今日はアリスと関わってなかったし、逆に服を貸してくれてありがとうってお礼を言いたいぐらいだ。
「クロちゃんが私の為にセシリアちゃんとお買い物に行ってくれたこと。それに、セシリアちゃんをこの家に住まわせてくれること」
アリスは俺の横に座り、ぐったりとしているセシリアに聞こえないような声量で続ける。
「……本当はセシリアちゃんと一緒にいることは嫌なんでしょ? セシリアちゃんが嫌いとかじゃなくて、聖女としての彼女と一緒にいることが」
「……そんなに分かりやすい?」
「ううん、そんなことないと思うよ? 私は、ほら……クロちゃんの理解者だから」
「流石は俺の理解者……よく分かってらっしゃる」
……ぶっちゃけ、ちょっとしんどい。
別に、セシリアが嫌いという訳では無い。
ただ、彼女から感じる『聖女』という性質に当てられたのだ。
聖女の魔力は、魔族が最も忌み嫌う『聖』。女神より授かりし、癒しと浄化を得意とする彼女の魔力は、魔族の弱点でしかない。
今の俺は人間。しかし、元が魔族だったのか、彼女の傍にいると、無性に気分が悪くなってしまったのだ。
ぐったりと疲れきっている理由の大部分がこの理由だったりする。
「……このこと、セシリアには言うなよ?」
「別に言わないよ……だからありがとうね、クロちゃん」
「……ん」
俺は頭を撫でられながら、軽く返事をする。
……案外、撫でられるのも悪くないかもな。
いつもは撫でる側だったから、こうして誰かに撫でられるのは新鮮でいい。それに、相手がアリスだからか分からないが、不思議と心に安らぎを感じる。
(……さて、飯でも作ろうかな)
アリスに頭を撫でられた所為か、不思議と先程までのだるさが軽くなった。
だから、そろそろ飯でも作ろう。きっと、学校帰りのアリスはお腹を空かせているだろうし、あまり遅くなってしまっては、余計にめんどくさくなるだけだ。
「アリスはセシリアの相手でもしててくれ。俺は今から夕飯を作るから」
「分かった!」
俺は立ち上がり、アリスの手から離れると、そのままキッチンへと向かった。
『セシリアちゃんあーそぼっ!』
『うわっ! い、いきなり抱き着かないでください!』
彼女が来てからと言うものの、いつもよりアリスの笑顔が増えた気がする。
前世での友人が身近にいることが一番の理由なのだと思う。それは、とても嬉しい事で、同時に嬉しい気持ちになってくる。
(二人がいると、なんだか胸が暖かくなってしまうな……)
そんなやり取りを見ながら、俺はそんな風に感じてしまった。
♦♦♦
(本当に、クロちゃんには感謝だよ……)
セシリアちゃんに抱きつきながら、そんな事を思ってしまう。
私は今、幸せ者だ。
会えないと思っていたセシリアちゃんがやって来て、今こうして昔みたいに話すことができた。
それに、何不自由もない環境————全部、クロちゃんから貰った。
感謝してる。でも、それ以上に私は————
(ふふっ。優しくて、頼りになって、かっこいい……私の理解者)
————大好きなんだ。
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