異世界の魔王と勇者、転生してひとつ屋根の下で一緒に暮らしています
楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】
第一章
プロローグ
皆さんは『前世』というものを信じますか?
天才的な剣道の達人が実は、宮本武蔵の生まれ変わりだったり、超IQが高い科学者が実はアインシュタインの生まれ変わりだったり————などなど。
もちろん、これらは何の根拠も証明もないもので、信じない人は多いのでは無いかと思う。しかし、俺は信じる。
何故なら、俺自身が転生者だからだ。
はっはっはー、信じてないな?
まぁ、それもそうだろうな。今時「前世の記憶、持ってます!」とか「俺、実は異世界からの転生者でさー」なんて言っている人なんて厨二病患者か、ただのイタイ人だけだ。
でも、信じて欲しい。本当に俺は転生者で、前世の記憶を持っているのだ。
俺の名前は
日夜魔王軍を率いては、勇者御一行と戦ったり、街を侵略したり、物資の略奪を行っていた。あ、でも勘違いしないでくれよ? 無差別にやっているんじゃなくて、やられた所を襲っていたんだぜ? やられたらやり返す、常識だろ?
しかも、俺とて無駄な争いなんてしたくなかった。出来れば戦争なんて辞めて平和に暮らしたかったさ。
しかし、それは無理だった。
例え、我が軍が侵攻をやめても勇者御一行は攻めてくる。それ以外にも、人間達は平気で魔族領に侵攻してくる。
そうなれば泥沼だ。こちらも攻めなければ、一方的に攻められるだけだからな。
だからこそ、魔族軍と人間側は日々抗争を繰り広げていた。
そして、俺は勇者御一行に————いや、これ以上はやめておこう。
もう、済んだ話なのだ。俺が死んで、この世界に再び生を受けて、抗争とは縁のない日常を謳歌している。当たり前の食事、たわいのない会話で盛り上がれる友人、優しく接してくれる家族。
今の俺には、もうあの日の血みどろな世界とは関係ないんだ。まぁ、少し向こうの世界での部下がどうしているか気になるのだが。
————という訳で、前世というものは存在すると思う。俺がその張本人だからな。
ん? そんなのお前の作り話じゃないかって?
そんなことないさ。実際に、俺以外にも転生したやつが存在しているからな。
♦♦♦
私の名前は椎名アリス《しいな ありす》、前世では『アリス・エンドブルク』という名で勇者をしていました。
この世界に転生する前は、貧しい家庭に生まれ、ある日聖剣を抜いたことから勇者になり、日々魔族と戦っていました。辛いこともあった。仲良くなった人が死んでいき、数々の悲鳴があちらこちらから聞こえる戦場を駆け回り、剣越しに伝わる肉を断つ感触は、今でも忘れることができません。
でも、楽しいこともありました。『勇者パーティ』と呼ばれる私達のパーティはとても面白くて、いい人ばかりで、一緒に旅をする時間は辛いことも忘れさせてくれるような、楽しいものでした。
……みんな、元気にしてるかなぁ?
しかし、そんな勇者であった私は転生しました。
どんな因果で転生したのか分かりませんが、こんな争いとは無縁なこの世界に生を受けました。
生を受けた————ということは、きっとあっちの世界の私は死んだんだろうなぁ。
最後の魔王との決戦。私はあの時魔王と一緒に————うん、この話はやめよう。
仲間達のことは気になるけど、今はこの世界で楽しく暮らしている。裕福ではないけど、貧しくもないありふれた家庭に生まれ、学校に行って友達も作り、勉強もして、学校生活を満喫しています。
♦♦♦
と言った感じで、俺以外にも前世の記憶を持つやつがいることから、作り話ではないということを分かって貰えただろうか?
まぁ、どんな因果かは分からないが、同じ世界の、それも敵対者同士が奇しくも同じ世界へと転生した。正直、俺も彼女と出会わなかったら、今頃「あ、夢か」で済んでいたと思う。
……初めて会った時は凄かった。いきなり鈍器片手に襲いかかってくるんだからさ。死ぬかと思ったわ。
魔王と、この同じ世界に転生し、当たり前の平和な日常で出会いました。経緯こそありふれているものの、運命の出会いというものがあるとすれば、これこそ運命の出会いだと思う。
……本当に、初めて会った時は驚いたなぁ。だって敵なんだよ? 思わず鈍器で襲いかかっちゃったよ。
そんな俺(私)ですが、今————
ひとつ屋根の下で一緒に暮らしています。
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