ガクエンレンゴク

真木ハヌイ

プロローグ

 それは、破邪煉獄はじゃれんごく学園一学期の始業式での出来事だった。


「これから諸君らには戦争をしてもらう」


 壇上の生徒会長、三年生の美星三太夫みほしさんだゆうは高らかに叫んだ。


 戦い合う、だと? 体育館に集まった生徒一同はいっせいに、ハア?と、首をかしげたことだろうと思う。実際、僕、小暮吾朗こぐれごろうもそう思った。一体、この学校の生徒会長様はいきなり何を言ってるのか。見たところ、それなりにイケメンで、それなりに頭よさそうな顔立ちだけど、まさか、何かのギャグのつもりなのかな。今年入ってきた新入生のハートをガッチリつかむつもりの? でも、それちょっと寒いよね。なんかどっかの有名作品のパクリっぽくてダダ滑りだよね。ギャグならもっと気のきいたこと言ったほうがいいよね。新入生の一人である僕は、その瞬間、そんなことを考えたのであった。


 が――、


「これはギャグではない。比喩でもない。れっきとした、諸君らに課せられた使命である!」


 イケメン生徒会長様は、次の瞬間、また高らかにこう叫んだのだった。


 そして、


「見事、この戦いを制したものには、私と結婚する権利を与える!」


 とも。


 これには、少しの間の沈黙を置いて、女生徒達のどよめきがわきあがった。ほら、生徒会長様っては、イケメンだから。しかも噂によると、超金持ちの家の人らしいから。まあ、女の子にとっては気になる話だよな。


 でも、男の僕にはどうでもいいっていう……。ってか、いきなりそんな突拍子もないこと全校生徒の前で言っちゃう男の人って……って、冷めた目で見るしかないっていう? もしかして変な高校に入学しちゃったかなあ、と、後悔すら感じ始めていた。


 だが、生徒会長様にはさらなるサプライズが用意されていた。


「男子生徒の諸君らには、我が妹と結婚する権利を与えようと思う!」


 そう言ったとたん、舞台のわきから一人の女生徒が生徒会長に歩み寄ってきた。イケメン生徒会長によく似た顔立ちの女の子だ。黒く長い髪に、ぱっちりとした瞳。その肌は雪のように白くて、少し戸惑いがちに微笑むその顔は、天使のようにかわいらしい……。


 おおおおっ! この子は! この子はいい! すばらしいい!


 体中の血が熱くたぎるのを感じた。


「妹の琴理ことりだ。私によく似て美人だろう? 気立てもよい。私に似て!」


 生徒会長は妹、琴理さんの肩を抱きながら言った。たちまち、うおおおおっ!と、男子生徒達のあらぶる叫びが体育館にこだました。


「戦争、といっても、殺し合いではない。決闘は法律で禁止されてるからな! 参加希望者は、本日の放課後、校庭に集合だ。そこで、具体的なルールなどについて説明する!」

「みなさん、ふるって参加なさってくださいね」


 琴理さんがにっこりと全校生徒に――いや、この角度は僕にだろ!って感じで笑った。瞬間、体の奥から熱い力がわき上がってくるような気がした。かわいい! ホントにこの子はかわいい! 嫁にしたい! そう思わずにはいられなかった。


「さあ、諸君らよ! 存分に猛り、存分にたかぶるのだ! 我が学園の名とともに!」


 美星三太夫が大きく叫ぶ。たちまち、生徒たちは一斉に歓声を上げる。


「ガクエンレンゴク!」

「ガクエンレンゴク!」

「ガクエンレンゴク!」


 それは怒濤の雄たけびだった――。

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