二十歳の原点(2017/06/17 10:02)

今日、また一つ歳を取った。


「独りであること、未熟であること、それが私の二十歳の原点である」


そういうには僕はもういくらか歳を取り過ぎてしまっている。

僕と同年代の友人は結婚し、子供を持ち、家庭を築いている。

それが幸せと呼べるものかは僕にはわからないけれど、世間一般的には標準的な三十代半ばのあり方だろう。

しかし、僕はといえば相変わらず未熟でそして独りである。半ば自虐的にそういうにはいささか歳を取り過ぎてしまっていたとしても。


じっと手を見る。


そして、これまでの人生で掴んできたものを想像する。

そこに選択肢があったにせよ、なかったにせよ(実際のところ、ほとんどなかったのだけれど)一応、僕という人間が選び、つかみ取ってきた人生だ。

下を見ればもっとひどい人生はいくらでもあるだろう。上を見ればもっと素晴らしい人生はいくらでもある。上を見上げすぎなければ今の立ち位置はそれほど悪くないのかもしれない。

しかしそれは悪くないというだけだ。どこまで行っても良いとは言えない。


まるで夢を見ているような人生だ。

いい夢とは言えない。どこか現実感がないだけだ。


僕は本当に何かを手に入れたことがあっただろうか。

僕の心の中には常に空白がある。それは小説の文末に訪れる余韻とは違う、最初から最後まで白紙の真っ白なからっぽのなにもない空白だ。


僕はそこを埋めてくれるなにかを探している。


それは手にしようとしてもいつも僕の指の隙間からこぼれていく、あるいは手にすることもできずただ眺めるだけだった。

そしてきっとこの先もそうなのだろう。


本当に欲しいものは手に入らない。手に入れた記憶がない。成功体験のなさが僕に自信というやつを与えない。いつも手元にのこるのは無力感と虚しさだけだ。自分がひどくみっともない存在に思える。そしてそれを半ば諦めたように受け入れている気持ち半分、どうにかしたいという気持ち半分でせめぎ合っている。


こうしてこれからも生きていくのだろう。

そのことを想像するだけでひどく薄暗く寒い場所に置いてきぼりにされたような感覚にとらわれる。

二十代のころはそんなことを感じることはなかった。きっとなんとかなるさ。ある日何かが突然訪れて僕の人生を劇的に変えてくれる。そんな甘い妄想が心のどこかにあった。

しかし、そんなことは決して起こりっこないのだ。もし、起きたとして、もう遅すぎる。


将来に不安を感じるほどには僕も歳をとった。

今のところ世間一般的な普通の幸福というやつは築けそうにない。

どんどん「平凡」からも取り残されていくようだ。


来年はいったいどういう心境で誕生日を迎えることになるのだろうか。あまりいい予感はしそうにない。


ハッピーバースデー。

今日、誕生日を迎える誰かのために。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る