人を見る目があるのか分からない僕が唯一分かること(2015/04/12 12:03)

 僕に人を見る目があるのかは分からないけれど、人を見る目が無い人を一人だけ僕は知っている。


 唯一、僕が確信を持ってそう言える人物、それはわが社の専務である。

 わが社で社長に次ぐナンバー2のポジションにつく人物。

 始業時間から遅れて重役出勤し昼前には会社を出ていき、定時前に返ってくる専務。その間、どこで何をしているのかは誰も知らないナンバー2。


 きっとナンバー2にもなれば秘密の商談や政財界との会合があるのだ。

僕には分からない。だって僕はただのヒラ社員だから。


 そんな専務の下で採用に関する雑務を担う僕。

 主語をどこかに落としてきたのか、最初からそんな概念がないのか分からないが、専務の会話にはいつも主語がなく、度々僕を混乱に陥れる。


 口癖は、アレしといてくれる?

 アレがどれだかわからない僕は、


 「はぁ……」


 としか返事が出来ず、今日もまた社内評価を落としていく。

 まったく世知辛い世の中だ。


 ビジネス用語と言えば費用対効果しか知らないのか、転職サイトの料金比較をしながら費用対効果と口酸っぱく聞かされる僕は、


「マイナビなんて転職サイト聞いたことないぞ、有名なのか?」

「新聞の集合広告が一番安くて効果的だろ」

「ハローワークはタダなんだから常に求人を出しておけ」


 そんなお言葉を拾い上げながらもっとも費用対効果が高いであろう、媒体を探し出して求人を出し、今時はウェブサイト上で便利なエントリーシートがあるにも関わらず応募者に履歴書と職務経歴書を郵送するように伝え、面接の段取りをする。


 そうやって専務のお眼鏡にかない採用に至った人材がわが社の礎とならない。なんともクールだ。


 採用理由が、元気そうだからとか、若くて可能性を感じたとか言う理由でわが社に入社した前途有望な中途社員たちは、志半ばにして想像妊娠により寿退職を向かえるか、どろんとした濁った眼でDMの装飾の位置調整だけで一日の仕事を終え、定時きっかりに会社を後にする。


 そんな彼ら、彼女たちが辞めていった後、専務は決まってこう言うのだ、


「あいつら使えねぇな」


 採用責任者の責任が追及されることもなく、今日もまた僕はアレをしなければならない。

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