第29話 ふたりきりのクリスマス・イブ。
ソラタは「私」になってすやすやと寝ている。
私はとりあえず寝室からタオルケットと毛布を持ってきて、ソラタにかけた。そしておでこに冷えピタを貼る。
「うう……ごめんね……」
不可抗力とはいえ、カゼをひいた身体をソラタに押し付けてしまう形になって、私はちょっと心が傷んだ。
だがしかし。
「このチャンスを使わない手はないわ……!」
そう。
やらなきゃならないことは5つ。
1.まず、シチューを作る。
これは昨日までに野菜をコンソメスープで煮込んであるので、小麦粉で炒めた鶏肉と牛乳と混ぜるだけ。
私は冷蔵庫を開けて、バターと鶏肉と牛乳を出した。
踏み台をコンロの前に置き、鍋にバターを……と、鍋が……
「重っ!!」
よっこらせ、と鍋をコンロに乗っけて、バターを……と、バターが……
「固っ!!!」
まるでレンガのようなバターに、バターナイフを思いっきり差し込む。
すっぽーん!
「あああ……!」
見よ、これぞ空飛ぶバター!とばかりに、千切れたバターが飛んでいく。
「あああ〜、もったいないぃ〜〜」
と、嘆いている暇はないのだ。めげずに二回目。よし、成功。
「ふぅ、次は、と」
にんにくを刻む。一口大の鶏肉と一緒に鍋に入れる。
「ナイフ……でかいな……」
間違えたらソラタの細っこい指なんてちょーん!と切ってしまいそうだ。
「慎重に……慎重に……」
ようやく切り終えて、鍋に放り込んで火を付ける。
焼き色がついたところで小麦粉を振り入れ、牛乳を入れる。
くつくついってきたところに、昨日のコンソメスープを入れる。
いつもなら鍋ごとザーッとあけるのだけど、今の私は小さなソラタ。おたまで慎重に移し替える。
そして塩コショウ、バター、粉チーズで味を整えて、完成!
ここまでで……
「げっ、もう2時半!?」
やることリストの次は、
2.ケーキを買ってくる。
3.プレゼントを受け取ってくる。
そう、こればかりはソラタがぐーすか寝て……もとい、風邪でダウンしている間に、なんとしてもこなしてしまわなければ。
私はコートを着て、お財布を手に、外に飛び出した。
ケーキ屋さんは商店街の先の、スーパーの中。
プレゼントはもっと先、駅ビルの中のおもちゃ屋さん。
やはりプレゼントが先だろうか……しかし果たして持てるのか?なんといっても今年のリクエストは人生ゲーム。そう、結構でかい。
私は思案しながらとっとことっとこ走った。ソラタの身体も、昔に比べたらだいぶ扱いやすくなってきた。
商店街を出て左に曲がる。
ぼすっ!
「……うわっと!」
「わっ!」
考え事をしながら走っていたので、向こうから曲がってきた人に、正面衝突してしまったのだ。
「す、すみません!」
くらくらする頭をさすりながら、見上げると。
「あれ、ソラタくんじゃん。またおつかい?」
まぶしい笑顔の、セイくんの顔が、私にはまさにクリスマスの救世主に見えたんだ。
「セイくん……!セイくんはどこに行くの?今忙しい?」
「えっと……いや、別に忙しくないけど?ちょっと晩メシでも買おうかなーって」
「ああ、良かったぁー!セイくん、助けて!」
私は素早く思考を巡らせる。何をどうすれば、この救世主を味方につけることができるか。
「何?どうしたの?ソラタくん」
「あのね……あのね……ママがね」
「え、ヒカルさんが?」
あ、そこ「ママ」じゃなく「ヒカルさん」なのね。って、そんなこたぁどーでもよくって!
「風邪ひいちゃったの。すごく熱があって」
「え!大変じゃん!ちょっと、どうしよう、俺。おかゆ?病院?救急車?」
セイくんは3cmくらい飛び上がったかと思うほど驚いた。
「あ、いやいや、たぶん寝てれば治るって」
私はあわててセイくんをなだめる。うっかり救急車なんて呼ばれたら大変だ。
「でもねぇ、ちょっと起き上がれないから、僕がケーキを買いに来たんだけど」
「ケーキ?風邪なのに?……あ、クリスマスか!」
「そうなの!」
さあ来い、セイくん。言え、その一言を。
純真無垢なソラタの身体の中で、腹にいちもつある私が手ぐすね引いて待っている。
果たして。
「ソラタくん一人じゃ大変でしょ?手伝ってあげようか?」
きたーーー!
「うん!ありがとうセイくん!」
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