第二話「彼女は俺に助言する」

   

「オサムちゃん、私から一つアドバイス」

 少し回想に耽っていた俺は、スミレの言葉で、ハッと我に返る。

「おっ、敵に塩を送る、ってやつか?」

「あんまりオサムちゃんが弱いと、私も面白くないからねえ……」

 と、煽るようなセリフを口にしてから、スミレは、少し真面目な顔になる。

「オサムちゃん、テレビの画面に近づき過ぎ」

 確かに、直接カーペットに座り込んでいる俺よりは、後ろのベッドに腰を下ろしているスミレの方が、画面から離れていた。

 というよりも。

 スミレは足をバタバタさせているので、俺の位置からだと、スカートの中身が見えてしまいそうだった。

 別に俺は、スミレの下着を見たいとは思わない。だが秘所だと思うと、妙な背徳感があって、興味をそそられる。

 そう、『秘所』だ。普通の女子大生ならば隠すべき場所のはずなのに、スミレは、この態度なのだ。俺のことを、全く男と思っていないのだろう。

 親たちの話によれば、物心つく前の俺は「大きくなったらスミレちゃんのお婿さんになる!」が口癖であり、スミレも喜んでくれていたそうだが……。俺と同じで、もう彼女も覚えていないに違いない。


「テレビに近づこうが遠ざかろうが、このゲームには関係ないだろ。目が悪くなる、とか言いたいのなら、それは別問題だ」

 少し悔しいので、そう反論してみる俺。

 ところが。

「わかってないなあ、オサムちゃんは……。画面に近いから、大局的な視点で見られなくなってるのよ」

「はあ? 難しそうなことを言って、俺をけむに巻くつもりか?」

「そうじゃなくて。ユニット同士の最終的な勝ち負けはランダムだとしても、相性とかパラメーターとか、一応関係するでしょ?」

「もちろん。だから俺も、自分の強いユニットが、きちんとスミレの弱いユニットに当たるように……」

「そう、それ!」

 スミレは大げさに、パンと手を叩く。

「オサムちゃんは『強いユニットと弱いユニットが当たるように』って考えてるつもりでも、実際には、一部しか見えてないの。このゲームは、全軍が同時に動いてしまうから……」

 少し思案顔になるスミレ。どう説明したら上手く伝わるのか、考え込んでいるらしい。

「オサムちゃんが『ここは勝てそう!』と注目している、一つのユニット。その間に、別のところで『明らかに負けそう!』というユニットが、もっとたくさん発生してるのよ」

 スミレの言いたいことは、なんとなく理解できた。

 じゃんけんで例えるならば、相手がパーとグーとチョキとグーで向かってくるところに、先頭のパーしか見えていないから、チョキとチョキとパーとチョキの列をぶつけるようなものだろう。

 これでは、一勝三敗となり惨敗。だが一つずらせば――相手の最後尾のグーと俺の先頭のチョキがフリーになるようにすれば――、相手の「パーとグーとチョキ」に対して俺が「チョキとパーとチョキ」だから、二つは勝てるし、残り一つも互角!

 これを実行するためには、視野を広くして、全体のユニットを把握しながら動かす必要が出てくる。

「おいおい……。このゲームって、そんなに高度な駆け引きが必要だったのかよ……」

「オサムちゃん、今まで適当に操作してたもんねえ。ただの運ゲーだと思って」

 軽く笑いながら、スミレは、自分の隣のスペースをポンポンと叩いた。

「さあ! オサムちゃんも、ここに座って。そうすれば、今度は私に勝てるかもよ?」

   

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