第32話
32
「恐喝と詐欺…」
田中巡査が思いつくまま呟く。その言葉の先に何を思えばいいのか。
巡査もロダンと同様に頭を掻いた。それは一人の年老いた芸術家の無念か、それとも強奪すべき犯罪者の作為的犯意か。
放たれたピストルの弾丸は老人の年老いた肉体と高潔な精神を打ち抜いた。もしロダンが言う事が正しいのであれば、それは唾棄すべき犯罪者の性根こそ、正義の炎で燃やし尽くされなければならい。
「持ち去られた芸術品は悪魔の手によって持ち去られ、それどころかあろうことかまた悪魔たちの技巧によって、悪魔の欺瞞として模造品が作られたのです」
ロダンの言葉に巡査が目を向ける。
「それを君はどうやって知り得た?」
頭を掻く手を止めて、彼はスマホを取り出した。それからスマホ内の録画ファイルを取り出す。それを指で触り、何かを選択するとやがて巡査の前に差しだした。
「こいつは、有馬春次の画廊前で撮影したものです。彼の画廊は天満の裁判所近くにあるんですがね。僕はそこに行ってみたんです。そしたらそこに見て下さい。張り紙があるでしょう」
巡査の目が動き出した録画を見る。綺麗な画廊の扉の目で張り紙が見えた。
――暫く、不在にします
巡査が呟く。
「…不在と書いてあるね」
頷くロダンが言う。
「見ていて下さい」
撮影者はロダンなのだろう。それが扉からやがてズームを引いてゆく。するとそこに怒声にも似た声が突如響く。
――あんた、この画廊の関係者か?それとも儂と同類か?
同類?
スマホがその声の方を向く。するとそこに一人の長身痩躯の老人が映った。その老人が近づいて、ロダンに向かって言った。
――こいつはなぁ、詐欺師や。
詐欺師?
――儂は岡山の在るところから来たものやが、こいつにえらい偽物を掴まされて腹いせにここにやって来たんや
偽物?
――まぁええ、それは言われないが、しかし、あの時、確かに買ったのものは本物やった…
本物やった?
――だがこの前こっそり地元の古美術商に鑑定してもらい、金に換えよう思ったら、精巧な偽物やった
精緻な偽物?
そこでスマホの動画は老人が激しく叩く扉を映し出す。
――有馬ぁ!!二十年前の事や、忘れてないで!!はよ、出てこい。金を返せ!!分かったな!
はよ、金を返せ!!
そこで動画は切れた。
ロダンは頭を掻いた。
「これは、リアルに偶然撮影できたものです。そう、あの老人夫婦と会った日の数日後でした。それからですよ、あの石段に里見雄二と牧村佐代子の生首が発見され、それから有馬春次がこのように逃走してるのを知ったのは。ここに至り僕は全てを洗いなおして、今ここで田中さんに話をしているのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます