第2話
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この暑い夏の最中、警らしている田中巡査にとって何が一番嫌かというと、この先に有るあの鬱蒼と茂る楠の石階段の付近を通るのが嫌だった。
あの苔むした石階段は日中陽が当たらず、その為都会の大阪らしからず何処か陰惨としていて心が落ちつかない生苦しさ感じないではいられない。
柔道で鍛えた体格を生かす為、警察官になったが、しかしながら実は心の方は意外と細心で臆病である。
だから、そうした場所は正直、避けたいと思っているのが本音だ。殺害事件の現場に出向くことは仕事柄仕方ないとはいえ、それでもできれば避けたい。
しかし、そうした心の弱音を他の諸先輩に見せるわけにもいかないから、そうした気分を悟られないように気がかりな時は鼻歌を誰にも分からないように小さく歌うか、もしくは必要以上に声を出す。
やがてその階段に差し掛かる。
その階段だが、何もなければ素通りで済むが、時には通るだけでなく階段を上がり途中の小さなみすぼらしい祠迄、階段を昇る必要がある。
何故かというとの階段一帯に何かしらが落ちているからだ。それは意外にも高級時計だったり、携帯電話だったり、それは様々なもので職務上、遺失物のような落し物があれば見過ごすわけにはいかない。
(何も落ちていませんように…)
田中巡査は心で願いながら自転車のペダルを漕いだ。
漕ぎながら自分がこの場所を嫌う本当の理由を思い出した。
自分が嫌う理由、
それはこの石階段の警察官仲間での謂れだった。
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