春夏秋冬
鮭B
夏
椿がぽとりと畳に落ちる。
右手を一度軽く握って、私は深い眠りから目覚めた。目覚めたと言ってもそれは意識の浮上であり、確かな感覚を持って自分を動かすことはまだ難しい次元にあった。
パサと椿の花が落ちた音が、反射するように脳を通りもう一度目覚めた耳に響いた。まどろみの中、古いレコーダーを繰り返すように椿は落ち続けた。
(これでは椿が丸坊主になってしまうではないか。)
私は椿に無用の心配を掛けながら、わずかに開けた目から太陽の光を拒むように眉を顰めた。
今日は仕事は休みだった。だから思う存分に布団に埋もれていられる。太陽を除いてそれを阻むものはいない。ただ目は太陽に慣れ、脳が覚醒を始める。
すると布団に散らばった髪や椿や休日の時間は有限であることがきにかかってくる。
右手でおそらく枕の隣にあるスマートフォンを探る。そういえば今日はデートだった。ごろりと横に転がり頭だけを敷布団からだす。すると畳の草の香りがふわりとして、脳の感覚内で障子から透ける光がより強調される。
(約束は確か12時半。)
スマートフォンの光は朝日より淡白で、エネルギーではなく人工的な白さ。画面には乗る予定の電車の時刻と、家をでるべき時間が表示されていて、それによるとまだあと3時間は余裕がある。
私はスマホを傍らに置き、再び目を閉じた。
そして内側から自然にエネルギーが流れていく感覚に陥った。血液が動脈から静脈へと流れゆくように。雨が空から屋根を伝い波紋を起こすように。皮膚の膜を溶け出して、畳の木の中へと染み出して、じわりと広がっていく感覚。
外で蝉が鳴いていることにふと気づいた。目覚めた時は椿の落ちる音ばかりが耳に入ってきたというのに、なぜわからなかったのか。
蝉に気づくとジワリと背中に汗をかいていることにも気づいた。私は眉を一度グッと寄せると起き上がった。朝起きるというのはなぜこんなにも重労働なのか。他の動物もそうなの?
障子を開けると、夏の独特な光を持った太陽が私を勢いよくさしてくる。
椿の花は一つしか落ちていなかった、そして私はそれにひどく安心する。
服を着替える、最近買ったお気に入りの緑のワンピース。私は黒い影を作る。
春夏秋冬 鮭B @syakeB
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。春夏秋冬の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます