第5話 "鬼"降臨

「名古屋支店から本日付けで赴任して参りました

 佐久間悠貴です。このシステム営業部の売上を

 底上げするためにきました。だから、私は

 皆さんと仲良くするつもりはありません。

 ……ありませんが、売上のためのサポートは

 全力で行なっていきます。

 皆さんも全力で売上に貢献してください。」


冷たく低い声がフロア全体に響く。


 見目麗しいこの青年は、隣に並ぶ175㎝の市原課長が見上げる程の高身長。長い手足に短髪の黒髪。彫りの深い整った顔立ちは、フロアに現れた瞬間に女性社員の目をハートに変えた。


 しかし、彼はにこりともせず、冷たい挨拶をさらっとしてのけた。


 1時間後、事務の百合ちゃんが詳細な情報をもたらした。


「佐久間部長は、名古屋の"鬼"と呼ばれた支店長

 だったそうですよ。31歳で異例のスピード

 出世を遂げているのは、社長の息子さんだから

 だそうです。」


給湯室で噂話はヒソヒソと広まる。


「え?

 だって広瀬社長とは苗字が違うじゃない?」

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