グリニッジ
PINA
プロローグ
「あの......すみません......!!」
午前8時50分。学ぶ価値の分からない教材がいっぱいに詰まったナップサックを引っ提げて、今日の俺は紫外線の雨を自転車で走り抜けていた。いつもならこんな時間だろうと何も気にせずカフェに寄り道でもしてからゆっくりこいで学校に向かうのだが今日だけは、そんな生活は俺の前に現れない。いや、「だけは」というより今日「から少なくとも半年間は」というのが正しいか。
一般的に日本の高等学校では60時間分授業をサボるとその時点で留年が確定するのだが、俺の欠席時間数は既に50時間を上回っており、このまま遅刻すれば確実に留年する。それはマズいと、つまりそういう理由で俺はこれだけ焦っているわけだ。
だからこそ俺は普段なら聞こえないフリをして無視するであろう呼び声に無性に腹が立ち、つい速度を緩めて振り向き返事をしてしまった。
「なにか用か。見ての通り俺はかなり急いでいるんだが。」
「お急ぎのところ、ごめんなさい。その制服、南高の生徒さんですよね?」
少女はこめかみあたりから長く伸びた黒髪をぐりぐりいじりながら、申し訳なさそうに言った。
「私、今日から南高に転校する汐留北南西です。さっきまで一緒に転校することになった友達といたんですけどいつの間にか置いていかれちゃって、それから道に迷ってしまって......よければ学校まで案内してくれませんか?」
上目遣いで俺の目をじっと見ながらそう言った。
「あの......そんなにみられると少し困ります......。」
「あ、ああ。悪い......ってか時間!もうわかったから後ろに乗れ、急ぐぞ!」
「え、ちょっ、きゃあっっ!」
我に返り、頬を赤らめてじっとこちらを見ていた彼女の手を引っ張り無理やり荷台にのせ、足をフル回転させて学校へ急ぐ。
あの時、俺は完全に汐留という少女に目を奪われてしまった。
彼女の目に刻まれた7という数字に。
俺には人の死期が見える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます