017 人妻に衝撃を与えます。
注:時系列順に掲載しましたが、
『おかけになった電話は、現在電波の届かない場所にいるか、電源が入っていないためおつなぎすることが……』
「ありゃ、最近出ないな~……公彦君」
前回、公彦と自然公園へ遊びに行って数週間が経過していた。しかし、未晴はそれ以来、年下の友人から一切の連絡を絶たれていた。
「どうしたのかなぁ~……」
こちらも別に暇というわけでもなく、単に向こうの都合が悪いのだろうと特に気にせず日々を過ごしていたのだが、さすがにもうすぐ一月が経とうとしているのに連絡がないのも心配だ。そう考えた未晴は何回か公彦に電話を入れたのだが、肝心の電波はいつも、相手に届いてすらいなかった。
「彼女できて縁切り? だったら一声かけるか着拒くらいするだろうし……」
首を傾げるものの、考える材料がないので結論を出すことはできない。
仕方がないのでバイト上がり後は通いつけのスーパーで買い出しをしてから、そのまま家路に着いていた。
「……まあいいや、ご飯食べて寝よ」
特にいい考えも浮かばないので、顎に当てていたスマホを仕舞ってから、代わりに公共住宅の一室の鍵を取り出して、解錠する。
「しっかし……今日はちょっと静かすぎない?」
もう日も暮れているというのに、両隣の部屋から明かりが漏れていなかった。いつものこの時間帯ならば、大抵どちらか一方でも灯りが漏れているというのに、今日はそんなことがない。普段はある生活音もないことから、今日はどちらも留守だということが分かる。
「珍しいな~今日はどっちも留守なんだ」
未晴は気にすることなく、解錠した扉を開けて、中へと入っていく。
「ただいま~、って誰もいないけどね」
扉を閉め、鍵を掛けてから明かりを点けようと手を伸ばす。
しかし、その手は何者かに止められてしまった。
「えっ? ……きゃっ!?」
一瞬、理解ができなかった。
鍵のかかった部屋に誰かが入ってくる。それなら扉を閉めれば済む話だったが、相手は最初から部屋の中にいたらしく、未晴の手を引くと、そのまま廊下の上に引き倒していた。
「いっつつ……ちょ、」
しかし、ここは郊外の一軒家ではなく、公共住宅の一室だ。叫べれば助けを呼ぶには十分だった……普段であれば。
「っと…………嘘でしょ?」
未晴の目の前に突きつけられたのは、テレビとかでよく見るが、現実では無縁であるはずの禍々しい鉄の凶器……拳銃だった。
「ん、ん……」
拳銃を突きつけられ、未晴は命惜しさに逆らうことができず、そのままビニールテープでぐるぐる巻きにされた。しかもご丁寧に、舌を噛まないよう唇に布を挟ませた状態でだ。
(押し込み強盗……?)
拳銃を突きつけられているので下手に動くことはできないが、壁を蹴って助けを呼べないかと爪先で軽く叩いてみるものの、壁の向こうからは気配一つしなかった。そして思い出したのは、生活音のない両隣の部屋という現状。
(他の家は制圧済み? もしくは留守だったから私の部屋に乗り込んできたと?)
疑問は絶えないが、その侵入者は未晴の心情に構わず、寝室へと移動させてきた。部屋が狭いので普段は布団を敷いて寝ているのだが、片付けていたはずのものは、すでに第三者の手によって広げられていた。
(何なのよ、こいつ……)
全身が黒っぽい服で覆われている。おまけに顔にも目だし帽をつけ、相手が誰かまで分からなかった。しかし、相手が誰かは関係ない。
ここまで準備周到ならば、やられることはたった一つ。
(た…………)
ビニールテープで拘束された腕を上に伸ばした状態で仰向けになるが、未晴は思わず目を瞑る。
(……………………たす、けて)
せめて目を閉じている間に終わって欲しい。できればその前に助けが来て欲しい。
**********
しかし、その想いも虚しく、未晴は侵入者に
(痛…………)
肉体か精神かすら、判別できずにいた。
それもそうだろう。愛撫もへったくれもなく、単に自らをゴミ捨てようの穴か何かのように乱暴に扱われたのだから。人から見れば
服もボロボロ、手足も動かせずにいると、
「ぅ……」
しかし、今の未晴には抵抗する気力が何一つ、残されていなかった。泣いていないのが不思議なくらいだ。
このままさっきまでみたいにまた犯されるのかと思っていたが……結果は違った。
「……ん?」
ナイフか何かでテープを切られて、腕が自由を取り戻していた。
さすがに他はまだ拘束されているが、この状態ならば自分で解くのも
「助けが来なかったな……」
ただし、
「当然だよな……あんたの旦那は、とっくに死んでいるんだから」
(あ、ああ、ああああ…………)
旦那が助けてくれない。
それは自分が強姦されるよりも、よっぽど
(……………………ドコ?)
旦那は今どこにいるのかを思い出そうとして、そしていつ戻るのかを思い出そうとして、最後に思い出したのは…………無機質な木棺だった。
(アレ? コレナニ?)
木棺の中で眠る旦那、周囲を取り囲む親戚の群れ。中には以前、自宅にも遊びに来ていた勤め先の上司や同僚の顔も。
(ナンデ? ネエ、ナニシテイルノ?)
しかし思い出せるのは、母と義母が、自らを抱きしめてくれている光景。
(オカシイ、オカシイオカシイオカシイ……………………)
旦那が死んだ。いや、もう死んでいる。
そんな
(…………………………………………チガウ)
しかし不意に、未晴は思い出していた。
その記憶が身に覚えのないものでなく……自らが忘れていたものだということに。
(ア、ヤダ、ア、アア、アアアアアアアア…………………………………………!?!?!?!?)
記憶が混濁し、思考がぐちゃぐちゃに掻き回される中、叫ぶしかできない未晴を背に……侵入者は姿を消した。
「ハァ……疲れた」
あれからすぐ、侵入者こと公彦は覆面を脱ぎ捨て、外に隠していた着替えに手早く袖を通すと、人目を避けながら急いで公共住宅から離れた。
現在は以前、未晴と共に訪れた公共住宅近くの公園に移動し、そこにいた人物と合流していた。
「……終わりました」
「はい、お疲れ様」
そしてクロと名乗った男に引かれるまま、今日のために用意したレンタカーへと乗り込んで、そのまま走り去っていった。
今回企てた計画だが、未晴への
『
計画を練る際にそう指摘されたが、公彦はむしろ、それ以外の方法は可能な限り取りたくなかった。
たしかに
『分かっています。ただ肝心なのはその後、…………いくら待っても旦那さんが助けに来ない。その事実を思い出させるだけですから』
そう、旦那はいつ、どこから助けに来るのか。
相手を想えば想うほど、相手を求めれば求めるほど、その記憶を欲しようと脳が動く。
公彦が狙っているのはそれだ。
未晴に
特に、用意した
「……実際、弾までは買ってないんですけどね」
「別にモデルガンでも良かったと思うよ?」
「いえ……やるなら徹底的じゃないと」
少し遠出して連れて来てもらったのは、港の埠頭だった。
公彦は鞄の中に今回使った衣装と拳銃を仕舞うと口を閉じ、そのまま海の中へと蹴り落とした。
「これでバイトもクビだから、ゴロウさんにまで捜査の手が及ぶことはない……最悪のパターンは未晴さんの通報で俺が捕まる、ですかね?」
「悪いけど、俺は付き合うつもりはないよ?」
犯罪
「適当な訪問販売で、お詫びに日時指定(変更、転売不可)の食事券をプレゼント。実際に何件かで不要品も売ってきたから、誰も怪しまなかったよ」
「管理人さんに止められたりとかはしなかったんですか?」
「あの手の公共住宅に、すぐに大金を出せるような人は少ないからね。むしろ訪問時間と接客態度さえ気をつけておけば、割りと面白がって話を聞いてくれることも多いよ」
本当にこの人は何者なのかと思ってしまったが、今の公彦は知らなくてもいいことだろう。
「じゃあ、適当な駅に送っていくから……幸運を」
「……ありがとうございます」
そして公彦はゴロウだけでなく、クロと名乗った男とも縁を切り……警察に追われる悪夢に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます