007 雨天でも楽しもうとしています。
「へぇ~、あそこもうやってないんだ」
「あれ、未晴さんあそこ知ってるんですか?」
「昔旦那と結婚する前にね~」
休日ということもあり、公彦と未晴は喫茶店のテーブル席で向かい合っている。特に行く当てもなく、先日から続く雨で出掛ける気分にもなれないので、お茶会という名目で居座っているからだ。
その中で話題に下ネタが上がり、そのまま公彦のエロ本事情を聞いた未晴だったが、そこから例のアダルトグッズ自販機の無人店舗もどきまで、話が伸びたのだ。
「この辺りはアダルト関連のショップもないから、通販以外だとそういうところしか買いに行けなくてね~」
「未晴さんがエログッズを買っていた……」
思い浮かぶのは卑猥な玩具の数々、それを手に裸の未晴を想像して……
「はい。エロ妄想終了~」
「はっ、ビーズロッド!」
「……妄想を否定するようで悪いけど、私お尻は
しかし公彦の発言が何を意味するのかは理解しているらしい。少しむず
「まあ、
「というより、女性がその手の場所に行く
「行く
ある意味では男女差別だが、女性より男性の方に
実際、エロ本と呼ばれるものの大半は男性向けに女体を晒す物で占められているのだから。
今でこそ
では果たして、どのようなものが女性向けのエロ本と言えるのだろうか?
未晴の脳内で思考が徐々にずれ始めた時だった、公彦が改めて話題を変えてきたのは。
「ちなみに未晴さん、そこで何を買っていたんですか?」
「私? 大体は
「
「……考えていることは分かるけど、いちいち興奮しないの」
飲み物と一緒に注文していたフライドポテトを一本摘みながら、未晴は冷めた眼差しを公彦に向けている。しかし興奮が冷め
「あのね、いくら
「え、い、ぃゃ、ぁ……」
「……ごめん、ちょっと刺激が強かった?」
雨天で気温も降り気味なので、未晴はホットコーヒーを飲んでいた。
しかし気温程度では、公彦の
「座っている内は大丈夫だから、ほら、周囲に見えないから手で抑えない。かえって刺激しちゃうから」
「ぁ、ぁい……」
どうやら、未晴の想定以上に公彦は興奮してしまっていたらしい。具体的には、自分を抑えられないレベルで。
「ぅぅん……普段はそこまで興奮しないの?」
「と、いうより……生々しくて」
「ああ~リアリティか……たしかに
公彦の手を握って股座に移動させない、という手も考えた未晴だったが、今の状況を見る限り、逆効果にしかならないだろう。互いに触れ合うだけで興奮することも人間にはままあることだ。
触れるだけも駄目となると、後は正攻法しかない。
「しょうがない……公彦君」
「ぁ、はぃ……」
返事に力が入らなくなってきている公彦に見えるよう、未晴はトイレを指差した。
**********
「……お、公彦君、落ち着いた?」
「はい、御迷惑おかけしました……」
「固いな~生理現象みたいなものなんだから、気にしなくていいのに」
暢気にコーヒーを飲んでいる未晴はともかく、先程迄トイレで致してきた公彦は当事者なだけに、その精神的疲労は計り知れない。普通はないだろう、デート中に
「にしてもちょっと興奮しすぎじゃない?」
「い、いや、まあ……ははは」
その時、未晴の脳裏にある単語が浮かんできた。
「……バイアグラや精力剤の類とか、飲んできた?」
「は、はは、ははははは……」
図星だったらしく、公彦の口からは乾いた笑い声しか出てこなくなった。
「未成年の内から頼っていると、それなしじゃ
「……え?」
公彦の口から、乾いた笑い声すら出なくなった。
「それマジですか?」
「性欲に限らず、普段から薬に頼っていると身体が楽しちゃうから、弱くなりやすいんだよね~」
今日はとことん、公彦が空回りする日だった。
「前回宿題をクリアしたから、そういう展開に持っていけると思ったのに……」
「何かに頼っているようじゃ、まだまだ子供だね~……というか人妻だって忘れてない?」
コーヒーはいつの間にか飲み干していたらしく、空のカップに口をつけた未晴は微妙に眉をしかめてから、ゆっくりとソーサーに戻した。
「追加注文するのも微妙だし……そろそろ解散かな?」
「ああ、もうこんな時間ですか……」
天気が悪いせいで薄暗かったが、その暗さに拍車がかかってきた。時刻はもう、夕方に差し迫ってきているのだろう。
「じゃあ家まで送りますよ」
「途中まででいいよ~もう家に入れる気ないし」
「……え?」
「髭を剃る時にスキンシップし過ぎたかなこりゃ。失敗、失敗……」
どうも髭を剃ったりトイレで処理させようとした結果、公彦から貞操観念が緩いと見られているらしい。これはどうにか修正しなければならないか、と未晴は会計に向かう前に、腕を組んで悩み出した。
「ちょっと青少年に良くないこと教えちゃったなぁ……」
「でも最近のエロコメなら、
「今時Bとか言わないって。公彦君今いくつ?」
しかし公彦をこのまま帰すのも何かと不安になり、未晴は店を出た後も、少しだけ寄り道することに決めた。
「しかたない。これはある意味毒を以て毒を制す教育だ、うん、そういうことにしよう」
「未晴さん……何を考えているんですか?」
そこはかとなく不安になる公彦だが、未晴の言うことには逆らわず、後ろについて店を出た。
というよりも、『毒を以て~』の発言にそこはかとなく期待して興奮してしまうのが正常な男子高校生だ。未晴に会計を任せてしまった時点で、頼りがいのある大人の男性路線は、今の公彦には難しいと言える。
「ちょっと買い物してから現地解散しよっか」
「いいですけど、どこへ行くんですか?」
「ちょっと歩いた所にあるブランドショップ」
一体どこだろう、と公彦が考えている間も、未晴はどんどんと前へ進んでいく。
――シャッ
「どやっ」
「おお~……大胆すぎませんか、未晴さん」
「そっかな……独身時代、というか学生時代は結構普通に着てたけど」
実際、未晴が試着している水着は際ど過ぎた。
「まあ、水着ならギリ健全路線だし、これくらいにしとくかな?」
「というか何故水着を? 俺は未晴さんの水着姿が見れたから別にいいですけど……」
「いや~ご褒美にいいところに連れてってあげようかと……ちなみにエロ系じゃないから、
「あぁ、はぃ……」
指摘されてしまう公彦だが、ならどこへ連れて行ってくれるのかと、水着の着心地を確かめている未晴に対して問いかけた。
「……じゃあ、どこに連れて行ってくれるんですか?」
「ん? それは次回のお楽しみ~」
しかし水着の時点で、公彦にはなんとなく察しがついている。
未晴が着替えようと更衣室のカーテンを引いてから、公彦は自分の水着を探そうと、男性用のコーナーに目を向けた。
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