Real Playing Game!

浅倉 茉白

〜オレが勇者で主人公はぼく〜

第1話 ゲームスタート

ㅤ教室の匂いが変わる。どこに顔を向けていたって、彼女が来たってわかる。


鈴木すずき愛生姫あきひめちゃん。黒髪ストレートのロングヘアー。匂いの種類は正直何かよくわからないけど、めっちゃイイ。


ㅤオレの隣の席に座る。隣と言っても、みんな等間隔に机が離れているから、すごく近いわけではないけど。


ㅤそれでもいい。たまに授業中、笑いが起きるとき、彼女の微笑みを横目で盗み見る。にっこりしてて、天使のよう。けどあまりまだ、彼女のことをよく知らない。だからオレは、ついにこの席を立ち。


「好きです。付き合ってください」


ㅤまだ生徒の揃っていない朝。青春の憧れと恥ずかしさが漂う中二。オレはそこを突っ切って、愛生姫ちゃんに告白するをしていた。


ㅤそれを現実にするのは、今日のところはやめておいた。まだ早い。チャンスは今じゃない。告白なんか、やろうと思えばいつだって出来る。戦略的撤退。


ㅤそれに、お付き合いできたとして、何をどうするのか、計画性も全くない。自然消滅が目に見える。


ㅤ後悔したくないからこそ、今日も熱い気持ちを抑える。オレの名は勇。佐藤さとういさむ。彼女が姫なら、オレは勇者。最初から運命は決まっているようなもの。だけど、勇という文字には、勇み足という言葉がある。


ㅤまさに今オレは、そのピンチを回避したというわけなのだ。


ㅤ彼女が消しゴムを落とし、オレが拾ってあげたときも同じことが言える。


「ありがとう」

ㅤ彼女が微笑んでくれた気がする。

「ん」

ㅤオレは目線をそらし、最小限の発声と言葉に留める。


ㅤもしもここで「好きです。付き合ってください」なんて言ったらどうなるか。


ㅤ付き合える可能性はせいぜい、50%か。1/2の命中率でアタックするなんて、どれほどのリスクか。


ㅤそんなアタックをするのはもう、自身への回復が追いつかず、次の攻撃で敵にトドメをさせるかどうかの賭けってときくらいだろう。違うか?ㅤまあいいや。


ㅤそんなわけで、今日も勇気を持って帰る。逃げるという選択をしたんじゃない、帰るという選択。"明日を生きる"と言ってもいい。


→帰る

ㅤ逃げる


→明日を生きる

ㅤ今失敗するリスク


ㅤ(こんな感じ)


ㅤけれど愛生姫ちゃん。君をいつか、勇者らしく迎えに行くから、その日まで待ってて。



✳︎



ㅤ薄暗いワンルームに明かりを灯す。どうやら家に着いてすぐ、眠ってしまっていたみたいだ。目が少し、濡れていて視界がぼやける。嫌な夢でも見たっけな?ㅤ覚えてない。洗面台で顔を洗って来て、何気なくテレビをつける。時計は夜の7時を指す。


「え……」

ㅤいつもはクイズ番組なんかがやっている時間のはずが、そこには制服姿の愛生姫ちゃんが映っていた。真顔で、すらっとした立ち姿の愛生姫ちゃんの背後には、大きめのモニターがあり、悪魔みたいなCGグラフィックが映し出され、何かしゃべっている。


『ワタシは、魔王。RPGの世界からやって来た。この世界を管理する、マザーコンピュータを乗っ取り、支配する』


ㅤ何の番組だ?ㅤ新番組か?ㅤ出るなら出るって教えてくれればいいのに。


『ここにいる鈴木愛生姫を救いたければ。勇者よ、旅に出ろ。"Real Playing Game!"スタートだ』


ㅤ勇者ってオレのことか?ㅤてか愛生姫ちゃん、何でそこにいるんだ。いつタレントになったんだ。


「なんだよ、これ……」


ㅤオレがうろたえるのもわかる。オレだってよくわからない。ただなぜか、直感でわかる。これが本当に現実で起きていることとしたら、やっぱり彼女はお姫様で、オレは勇者。救い出すために立ち上がるのは、今なんだ!


「ステータスを感じる……」


ㅤそりゃそうだ。オレは勇者。この世界をこれから冒険して、世界を救う役割を演じることになる。きっともうこのゲームは、さっきの合図で始まっているんだ。


「ぼくが、勇者?」


ㅤそう。オレが、勇者だ!


「あきひめちゃんを、救う?ㅤぼくが?ㅤほんとに?」


ㅤ何度も言わせるなよ。一緒にがんばろうぜ!


「ダメだ、眠ろう」


——体力が50、回復した。

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