第5話 休日
帰宅後、夕食と入浴を済ませた
画面には以前撮影した黒猫姿のナハトの写真。視線をこちらに向けて可愛らしい表情で写っている。
頭に浮かぶのは図書室で見たナハトの表情だ。いつも不適な笑みを浮かべているのに、あの時は違った。あんなに険しい表情は見たことがない。
(ナハトが暮らしていた世界で何かあったのかな……)
そんなことをぼんやりと考えていた時、ラインの受信音が鳴った。
差出人は
「明日、
「雑貨屋……」
そういえば二週間くらい前に新しい雑貨のお店が駅裏にあるビルの中にオープンしたんだった。
紗玖乃はすぐに「私も行くよ」と返信する。
すると、またすぐに李奈から返信が。
集合時間は午前十一時、集合する場所は駅の中に入っているカフェの前。
紗玖乃も「OK」と送り返す。
駅裏に出来たお店は前から気になっていたので、明日行けるのはちょうどいい。
色々とかわいい雑貨があると聞いているので楽しみだ。
小型のミラーやスクールバッグに付けるキーホルダーが欲しいと思っていたから。
そこで紗玖乃はあることに気付く。
「明日着ていく服、選らばなきゃ!」
手に持っていたスマホをベッドに置くと、紗玖乃は立ち上がって服がしまってある
引き出しを開けて目に飛び込んできたのは春用の黄色のセーター。最近暑い日が増えてきたので、そろそろ春服はしまってもいいかもしれない。
「衣替えは後でいいや。明日、何着ていこうかな。この前買ったフレアスカートとか……」
そんなことを呟きながら、しばらく引き出しの中の服を出したり戻したりしているのだった。
♢♢♢
翌日、紗玖乃が待ち合わせ場所のカフェの前に向かうともうすでに李奈と香織が来ていた。
李奈は白のTシャツに薄いブラウンのミニスカート、香織は黒のブラウスにグレーのコーデュロイショートパンツのコーデ。ショートパンツにはトップスと同じく黒いベルトを合わせている。
紗玖乃は水色のカットソーに白のフレアスカートを合わせたコーデだ。
「二人とももう来てたんだ。待った?」
「ううん、あたしも李奈もさっき着いたばかりだよ」
香織がそう答えると、李奈も頷く。
「じゃあ、行こっか!」
李奈はワクワクしていて楽しそうだ。
二人は李奈を先頭に目的地に向かった。
「もしかして、あの看板が出てるお店?」
紗玖乃が指をさしたまま、李奈に顔を向けて尋ねる。
看板が出ている建物の前には数人の女の子の姿が。
李奈は頷いて、「そうだよ、あのお店」とちょっとテンション高めに答えた。
三人が顔を向ける先には、ビルとビルの間に三階建てのこじんまりとした白い建物がある。
確か三階は小さなイベント会場、二階は空きテナントだったはず。
一階の入り口の前には縦型の看板が置かれていた。店名はカラフルな文字と「OPEN」の文字が踊っている。
店内を覗いてみると同じくらいの年齢と思われる女の子たちやカップルの姿が目に入った。
「よし、入ろう!」
「うん」
李奈を先頭に二人も続く。
店内には花や動物をモチーフにしたグッズが陳列されている。どの商品もカラフルでデザインの種類も多く、眺めるだけでも楽しそうだ。
キーホルダーやスマホケース以外にもカップや小物入れ、アクセサリーなんかもある。
「思ったよりも色々とあるね」
「そうだね」
店内を見回しながらそう口にする香織に紗玖乃が答える。
商品に目を通していると、陳列されている猫のグッズが目に入った。
目を惹いたのは丸まっている黒猫のキーホルダー。
紗玖乃はそれを一つ手に取ってみる。
細めた目の色が金色なところもナハトと同じだ。
キーホルダーを持ったまま他のグッズにも顔を向ける。
猫のイラストがプリントされた丸い小型のミラーやポーチなんかも置いてある。何を買おうか正直迷ってしまいそうだ。
少し迷った後、白い小型の丸いミラーも手に取った。
「サク、どれ買うか決まった?」
李奈に声をかけられて振り返る。彼女が手に持っているカゴの中には水色の小型のポーチと薄紫色のイヤリングが入っている。
「うん。この黒猫のキーホルダーと丸いミラー買おうと思って」
「いいね! どっちもかわいい」
そこに香織もやって来た。
カゴの中にはシルバーのブレスレットとネックレス、ミントグリーンの折り畳み式のクシが入っている。
「二人とも決まった?」
「うん」
紗玖乃と李奈が頷く。
三人はレジに向かうとそれぞれ会計を済ませて店を出た。
五月もまだ下旬だというのに初夏を思わせるくらいに外は暑い。
気温が上がってきているのも関係しているのかもしれないけれど、少し歩いただけで汗が出てくる。
昼食を取るために紗玖乃たちが駅に向かって歩いていると、香織が言った。
「ねえ、あの子……」
彼女が顔を向ける先には一人の男の子が見える。幼稚園児くらいのその男の子は落ち着きなくきょろきょろと辺りを見回している。その表情はとても不安そうだ。
「こんにちは、どうしたの?」
香織が男の子に声をかける。
男の子は顔を上げると、
「ママと、お姉ちゃんいなくなって」
(はぐれちゃったんだ)
こういう場合は何が正解なのだろう。
頭に真っ先に浮かんだのは交番に連れていくことだけど。
「大丈夫だよ。すぐにママとお姉ちゃんに会えるから」
香織が優しく声をかける。
李奈も屈んで男の子と目線を合わせると、
「そうだよ。だから心配しないで」
そうは言ってもここは屋外だ。あちこち闇雲に探すわけにはいかない。
かといってこのままこの場所にいるのも危険だ。だんだんと気温も上がってきている。
(どうしよう……。やっぱり交番に連れていくべき?)
紗玖乃が李奈に声をかけようとした時、奥の方で「ママ、いたよ!」と女の子の声が聞こえた。
紗玖乃たちが声のした方に顔を向けると、小学校低学年くらいの女の子がこちらに向かって走ってきた。後ろには母親とおぼしき女性の姿も見える。
「
「ママ!」
名前を呼ばれた男の子が顔を上げた。その表情からは安心した様子が伝わってくる。
男の子が勢いよく駆け出す。
「ママ!」
「どこに行ってたの、探したのよ!」
母親はそう言うとすぐに男の子を抱き締めた。
紗玖乃たちが近付いて行くと母親は顔を上げてから立ち上がると、「すみませんでした」と頭を下げた。
「いえいえ、大丈夫ですよ」
香織がそう答えてから、李奈が男の子に「ママとお姉ちゃんに会えてよかったね」と声をかける。
「黒いネコちゃんが教えてくれたんだよ」
女の子は笑顔でそう言った。
「え? 黒いネコちゃん?」
思わず紗玖乃が反応する。すると、女の子は「うん」と頷いた。
「ママと私が利久を探してたら、黒いネコちゃんがこっちだよって教えてくれたの」
「そうなんだ」
紗玖乃はそう返すと辺りを見回した。その時、ちょうど黒い猫がビルとビルの間に入っていくのが見えた。
♢♢♢
二日後。紗玖乃は学校に着くと教室ではなく屋上に向かった。灰色の扉を開けるとすぐ側で仰向けになっているナハトがいた。
紗玖乃に気付いたナハトは仰向けの姿勢をやめて近付いて来る。
「おはよう、ナハト」
「おはよう。おや、ずいぶんかわいいものを付けてるじゃないか」
「かわいいもの?」
ナハトが見つめているのはスクールバッグに付けられた猫のキーホルダーだ。彼と同じく黒い猫。
「ああ。これ土曜日に駅裏のお店で買ったの」
「やはり、あの時見たのはサクだったか」
ナハトが確信したょうに口にする。
「あの時見たって……。迷子の男の子とお母さんたちを引き会わせたのやっぱりナハトだったんだ」
「ああ、そうさ。必死に探していたからな」
そう言うと、紗玖乃を見上げたままさらに続けた。
「そういえば、サクのあの格好よく似合っていたぞ?」
「え?」
紗玖乃は間の抜けた声を出す。
自分があの日着ていたのは水色のカットソーに白のフレアスカート。
似合っていたと言われて、途端に顔が赤くなる。
「あ、ありがと……」
少し顔を
ナハトは答える代わりに口角を上げた。
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