22杯目 討伐のあとは宴ですよね?
勇者召喚暦二〇二〇年・六月二十七日・ノーム・天気:晴れ
気がつくと私はベッドの上で横になっていました。
ここは……自宅ですね。あれ? さっきまで魔獣ムルシエラゴと戦っていたはずでは? もしかして全部夢だった?! ウソッ?! まさかの夢オチですか!?
愕然となり急いで起き上がろうとしますが……なぜか身体が動きません。
えっと……これはどういう状況ですか? わけが分からず混乱していると、
「目が覚めたかい? まったく後先考えずに行動するところは昔とちっとも変わっていないんだね、シオーネ」
心底呆れ果てたといった様子の声がベッドの足元から聞こえてきます。
視線を向けると、車椅子に乗った赤髪の少女が一人、ティーカップを片手に分厚い本を読みつつ寛いでいました。
あれ? シエール? ハッ! ひょっとしてまだ夢の中とか?!
それなら身体が動かないのも、自宅にシエールがいるのも納得ですね。
さぁ、早く目を覚まさないと……。魔獣を討伐しにいくんですから……。
ほら、こうやって一度目を閉じて、再び開けば――、
――いますね、シエール……。あれ? ということはやっぱり現実?
現実と夢の境界線が分からず目を白黒させていると、
「なにをやっているんだい、キミは……。ほら、意識が戻ったならこれを飲むんだ。空っぽになった体内のマナが多少は回復するはずさ」
いつの間にか枕元に移動し、私の口へドロッとした液体入りの瓶をねじ込んでくるシエール。
うぐっ……甘っ、苦っ、辛っ、酸ってなにを無理矢理飲ませてるですか?!
抗議しようとベッドから立ち上がると……あれ? さっきまで全然動かなかった身体が、普通に動く……あれぇ?
不思議に思いシエールへ訝しげな視線を向けると、マナ欠乏症については前に説明したはずだけどね、と素っ気ない答えが返ってきます。
あぁ、体内のマナが枯渇すると一時的に動けなくなるアレですか……。
さておき……どうやらこれは現実っぽいですね。ということは、やっぱり魔獣ムルシエラゴと戦っていたのは夢の中の出来事だったんでしょうか?
不安げに尋ねると、目を瞬かせくっくっと笑うのを堪えながら、シエールが状況を教えてくれます。
私が確かに魔獣ムルシエラゴを倒したこと、そのときの影響でマナ欠乏症に陥り十数時間昏睡状態にあったこと、などなど。
そっかぁ……。私、ちゃんと仇を討ったんですね……。
あれらが夢でなかったことに安堵し、再びベッドへ仰向けで倒れ込みます。
そうして天井を見つめていると、なぜか自然と涙が溢れてきて――、シエール? しばらく一人にしてもらっていいですか?
「あぁ、いいとも……。そうだ、落ち着いたらキッチンへ来るといい」
なにかを察した様子で頷くと部屋をあとにするシエール。
ふふっ……意外と優しいですよね。ありがとうございます……。
数時間後、言われたとおりキッチンへ向かうと、そこには様々な料理を準備するグラディとノンネ、シエールの姿が……。
なるほど……冒険者時代によくやっていた討伐祝いの宴会ですか。
よく見るとハルバにカブダ、ケミアの好きな物までちゃんと並んでいます……。
分かりました! 今夜は盛大に飲みましょう! 私たちは勝ったんですから!
笑顔を浮かべ歩み寄ると、優しく迎え入れてくれるかつての仲間たち……。
あの頃から続いていた冒険は、これで本当に終われたのかもしれませんねぇ。
今夜のお酒
ユウヒ オフ(麦酒)(度数3度以上4度未満):一杯
キックスイの純米酒(度数15):三本と少々
おつまみ
お刺身の盛り合わせ、ピザ、焼き肉、海鮮丼、ケーキ、ご飯
連続飲酒日数:一日目
最大連続飲酒日数:二十日
最大連続禁酒日数:二日
あぁ、今夜のお酒は格別ですねぇ……。
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