16杯目 聖女様は武具店がお好き?

 勇者召喚暦二〇二〇年・六月二十一日・サーン・天気:晴れ


 うぅ……眩しい。もしかして、もう朝ですか?

 寝ぼけ眼を擦りながら自宅のベッドから起き上がり、グニュッ――?!

 ヒッ!? なにか踏んだ?! 生暖かいなにかを思いっ切り踏んだ?!


 慌ててベッドの上へ跳び返り、視線を向けるとそこには、酒瓶を抱え苦悶の表情で寝息を立てる黒髪の少女が一人。

 あぁー……思い出しました。昨夜、あのあとカナエ氏と自宅で飲み直したんでした。で、夜も遅いのでそのまま泊めたんでしたっけ……。


 昨晩の記憶を手繰りつつ窓の外へ視線を向けると、路地の陰に欠伸を噛み殺しながら佇む保安騎士の姿が……。徹夜のお勤めご苦労様です……。

 

 う~ん……保安騎士の状況から考えると、まだ犯人は釣れてないみたいですね。

 はぁ~、つまり今日もカナエ氏と二人変装して街の散策ですかぁ……。


 というわけで少し遅めの朝食を済ませたら、支度を整え外出。

 まずは数日前に武具店へ預けたリュートを受け取りに向かいます。

 昨日、お店のことを話したら、カナエ氏がとても興味を持ったんですよね。別に珍しくもない普通の武具店なんですけどねぇ。まぁ、店主の腕は確かですけど。


 目的の店に到着すると、目を輝かせながら店内の棚を見て回るカナエ氏。

 えっと……異世界の女の子ってアクセサリーや可愛い服よりも剣や盾、鎧なんかが好きなんでしょうか? ここ数日で一番の笑顔のような気が……。


 カナエ氏が商品を見入っている隙に、カウンターで煙管を吹かす店主へ声をかけます。


「うぉっ?! 誰かと思えばシオーネの嬢ちゃんか。どうしたい、そのナリは?」


 訝しげに見つめてくる店主のおじさんに愛想笑いを返し、用件を伝えます。

 あ、あと、魔物素材で作ったリュートに使う弦もください。とりあえず太さは一番と十五番を二セットずつ。


「だから、ここは楽器屋じゃねーって……。竜のたてがみをそれの弦に使うのとかお前さんぐらいだぜ? 本来は弓やクロスボウ用の品なんだがなぁ……」


 ぼやきつつも修理の完了したリュートと一緒に、商品を包んでくれるおじさん。

 そして、コイツも持ってけ、と見慣れない弦も一セット加えてくれます。


 太さ的に第二~三弦ですかねぇ? 元の素材はなんなんですか?

 白く輝き透き通るような弦を手に取り尋ねると、さぁ~てなぁ、ユニコーンの尻尾だとか言ってたが、それ一つじゃ商品にならん、ってまぁ、確かに……。

 でも、ユニコーンの素材とか貴重ですし、ありがたく貰っておきましょう。

 

 そのあとはカナエ氏の気の向くまま街をぶらつき夕方。

 歩き疲れ食事をとるために訪れたのは、やっぱり馴染みの酒場です!


 今夜も飲むんですか?! と驚くカナエ氏を引っ張り店内へ。

 中に入ったら彼女の好きな料理を適当に注文させます。ついでに私はお酒を少々。

 さて……武具店を出たあとから微妙につけられている感じがあったんですけど……気のせいでしょうか?


 お酒をちびちび周囲を警戒していると、運ばれてくる魚料理の数々……。

 海鮮丼にお刺身、お魚のお煮染め! この醤油の香り! はぁ~、堪りません! とニコニコしながらそれらに手を付けるカナエ氏。


 なるほど……異世界の郷土料理ですか。普通に美味しいですよね。お酒にも合いますし。よしっ、私も同じものを食べましょう。

 ふぅ……美味しい料理とお酒、今日も何事もなく終わって欲しいですねぇ~。



 今夜のお酒

 ユウヒ超ドライ(麦酒)(度数5):一杯

 コッシノカゲトッラ 特別純米酒(度数15度以上16度未満):三本と少々


 おつまみ

 青魚のお刺身二種、冷や奴、青魚のお煮染め、海鮮丼、サラダ


 連続飲酒日数:十七日目


 そろそろ動いてくれますかねぇ? あぁ、お酒美味しい。

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