七話『弁当と幼馴染』

「やぁー、動いた後のお昼は格別だわぁー(もぐもぐ)……あれ、希なんで食べないの?」


 昼休み、希は普段他人の食事の内容を特別凝視する事はなく、また平乃の昼食事情なども知らず、それ故にこの日まで何ら疑問にも思わなかったのだが。


 を希が見たとき、少しばかり眩暈がした。


「……えと。国本くんって平乃のお弁当朝起きてから作ってるの?」


「そうだよ、うん。本人はそう言ってた」


 そう言って平乃は自分が食している弁当箱を希へと見せつける。底面積はB4サイズ、高さはiPhoneの縦の長さよりも大きい、二段構造の弁当箱を。


「えーっと……これは……」


「あ、もしかして味見したい? 希ならいいよ?」


「そう、でも、あるんだけど……」


 一段目は半分が炒飯でもう半分は冷凍食品のほうれん草のおひたし、ポテトサラダやミックスベジタブルなどなど。野菜がたくさん。炒飯の具はベーコンと玉ねぎが入ってるのは見ただけでわかったけれど他にも色々入っているように見えた。


 それはいい。国本美都は『半分は冷食』と言っていた。確かに冷めたというのに香ばしい匂いを放つこの炒飯を除いて全て冷食。それはいい。


 もう一段。


 コロッケコロッケ焼き肉焼き肉唐揚げ唐揚げ唐揚げコロッケ唐揚げ唐揚げステーキ串焼きタコさんウインナー。


    。


 辛うじて土台にキャベツの千切りが埋まっているのは見えた。タコさんウィンナーで誤魔化されないぞ何だこの油の大行軍は。カロリーの悪魔、見てるだけで胸焼けしそう。


 半分冷食?? いやこれどう考えてもレンチンじゃなくて全部……ええ???


「お、多いね?」


 それはどう考えても女子が食べる量じゃないだろう、野球部の男子の弁当箱じゃないか、というか太らない? という言葉を希は飲み込んだ。少なくとも、平乃が昼御飯を残したという記憶がないからだ。あと記憶の限り平乃のスタイルが崩れたこともない。胃袋ブラックホールか何か?? カロリーどこ行ってるの???


「……国本くん……これはダメじゃないかなぁ……」


「え、何がダメなの?」


 平乃の食事量だよ。この量を毎朝タダで作ってるとしたら相応の、決して軽いとは言えない時間と金銭が飛んでいるはずだ。それを許容するだけの得が無いと、やろうだなんて思えない。


 国本美都が聖人のような精神性の人間であるか、料理が大好きで余っ……いやこのレベルの余りが発生するなら料理やめてしまえ。唾棄。その仮定は有り得ないものだろう。


 希も多少料理はする。けれど、たとえ平乃に頼まれたとして毎朝この量を作るのは……流石に厳しいものがある。出来るかどうかで言えば余裕である。余裕ではあるのだが!!


「……国本くんに対抗心燃やしてどうするの私」


「???」


 弁当箱を見る限り料理の腕はそこそこ、家庭で作るのであれば十分なレベルだろう。むしろ高校生がそれだけの調理能力を持ってるのは凄い部類ではないだろうか。


 恐らく、これを呑気な顔で平らげている体育会系女子はその凄さを全く理解していないに違いない。


 希は平乃へと問うた。


「……平乃って、自分で料理する?」


 弁当箱を見てから希はずーっとこめかみを抑えている。何か悩みでもあるのだろうか。平乃はそう思った。


「うん? 料理はしないよ。それがどうしたの?」


「このお弁当作るのにどれくらい時間掛かるか分かるかな?」


「…………け、結構?」


 アバウトな回答だった。希はため息を飲み込んで険しい表情で平乃の弁当から唐揚げを二つ奪い取ると、そのうちの一つをまるごともっきゅもっきゅと食べ始めた。


 険しくなった希の顔色を見て、あたし何かまずい事言ったんじゃないかなと思った平乃は。


「まあ、その、美都は別に遅刻したこともないし、そんなに時間掛かんないなら、やってみようかなぁ、なんてね、はい」


「そっか。じゃあ平乃、今度国本くんにちゃんとしたお礼した方が良いと思うよ? メール送っといたから」


 ちなみに唐揚げは普通に美味しかった。眉間に寄っていたシワが消えるくらいには。




 ◆◆◆


「というか昼休み入ってからあたし、美都見てないけど……アイツ今どこにいるんだよー。こんな可愛い彼女からメール貰っておきながら……ブツブツ……」


「あ、はははは」


 ◆◆◆




 一方その頃。


「────あら目覚めたかしら、国本美都くん、で、合ってるかしら? かしら」


「…………ボククニモトミツトカイウニンゲンジャアリマセンヨ、アハハハハ……?」


 俺は体育倉庫らしき場所で手足を椅子に縛られてお化けみたいな黒布を被った集団に囲まれて棒状のものを首筋に突き付けられていた。


 黒衣に目元と肩辺りに穴が開いてるのでお化けとは思わなかったが、統一された衣装(??)にいっそ宗教じみた集団に囲まれて目を覚ましたわけだ。漏らすかと思ったね。あと首に突き付けられてるのは釘バッドだった。


 ……これはまさか古より伝わりしあの、FFF団……? いやいや、そんな馬鹿な。アレ紫だし。だいたいここ召喚システムとか無い普通の進学校だよ??? つかこのネタ通じないな??


「あら違ったかしら?」


 右手に釘バッドを持っている黒衣が女性らしき声でそう言った。


「(高速で首を縦に振って顎を釘バッドにぶつけて悶絶)」


「誤魔化そうったって無駄無駄かしら。生徒手帳見たから君が国本美都なのは確定かしら」


「酷いな、騙したのか」


「騙してない、確認しただけかしら……ふーん。へぇー? あなたが……ふーん???」


 …………おねえさま。


「あ、もしかして同性愛へばぁ!!?」


「わたくし達はレズではないかしら!!!!??」


「痛っっっっ!? ……くない???」


「どうですスポチャン用の長剣の味は!!! 何か言ったらどうかしら!??」


「あー、じゃあ。……その釘バッドは飾──ひぶぇ。」


 そう言い終わる前にもう数発スポチャン用──スポーツチャンバラ、だったっけ──の柔らかい剣で頬をぶっ叩かれた。思い切り殴られたのでかなり痛いが、やっぱ飾りじゃねえか釘バッド。

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