偽装カップルと幼なじみ

リョウゴ

一章:幼なじみがものすごい告白されるから偽装彼氏を用意したよ

一話『偽装カップルが生まれた日』

「────一目見たときから好きでした、付き合ってください!!!」


「ごめんなさい、付き合うことはできません────」





 九十度の謝罪。今週に入って既に十人目である。断った女子生徒は一頻り気まずい空気の会話を続け、気が済んだのか立ち尽くす女子生徒を置いて男子生徒は走り去っていった。


 そこに、入れ替わるようには低木の影から姿を表した。


「まだ月曜日の放課後だってのに災難だったねぇ……」


「平乃さん。災難、と言ってしまうのはさっきの人に失礼です」


「いやいや、1日に二桁の人から告られるってのは十分災難でしょうがよ。さっきの男子のことは関係なしにさぁ……」


「……慣れていますから、こういうの」


 内心断ることを申し訳なく思っているのだろう。生真面目な親友の返事に、あたしは身振り手振り加えて励まそうとした。


 さらっさらの黒髪に白くて綺麗な肌、校則をきっちり守った制服。そしてデカい胸。太い家柄。言い換えればお嬢様で……えーっと、育ちが良くて? 社交性もある人懐こい性格で? なんか誰に対しても等しく優しい対処するのでもうそりゃ男子高校生くらいなら余裕で落とせるわけですよ。モテモテ。モテモテが波及してどのクラスでも『誰が落とせるのか』みたいなゲームが始まる始末。人の親友の事を何だと思ってるんだコラ???


 おっと失礼。あたしの育ちの悪さはまあさておいてね?


 そんな感じで同性のあたしから見て美少女にカテゴライズしてる親友、宝田希たからだのぞみ。この女子とは小学生からの付き合いなのだ。


 いや、あたしはド平民だよ。きょうび実家が金持ちで育ち良くてもわざわざ私立のお嬢様学校とか入れないみたいだから、小中高校と同じ学校を進めてるわけです。そして、ここはまあ……偏差値の高めな公立高校だよ。


 長い付き合いであるー。なので希の事情は分かってるのであーる。


「いやいや、慣れてるとかで誤魔化せる量じゃないでしょ。こんなの野郎共の悪ふざけだよ」


「悪ふざけ?」


 こてん、と首を傾げる希。そういう無垢な反応が『告ればワンチャンあるんじゃね?』とか生半可な気持ちで告白する男子の存在を生み出すことを理解していないんだよ。つーか全部そうだろだって希は可愛いからね……今さっきのだって覗きたくて覗いてるんじゃなくて襲われたりしないか心配だから見てるんだからね??


 あー心配だ。本当に心配だ。今まで全部の告白を希は断ってはいるけれどいつか変な男に引っ掛かりやしないかがマジで心配。野郎なんて大体皆バカなケダモノばっかって漫画にかいてあったし実際そうっぽいし、そんなのに私の希を渡せるかってんですよ。


 でもなぁ、四六時中私が一緒にいられるわけじゃないからなぁ……。


「…………希が告白されない良い方法が無いかな。希も毎休み時間放課後が告白の対応で潰されるの大変でしょ?」


「告白というとても勇気がいる行為をしてもらっているのです、時間くらい。私も誠心誠意以て応対する以上は」


「重く考えすぎだよ、希は。あんなの適当にあしらっても誰も恨まないって……あっ」


 ……良いこと思い付いた!!


 この方法なら希に被害が及ばない上に告白されることはない、そんな最高の方法を思い付いたあたしは早速スマホを取り出してメッセージアプリを起動する。


 ……おや、都合が良い。、これから会えるかってわざわざ自分からメッセージをくれるとは。


「どうしたの、平乃」


「希ってさ、好きな人いる?」


「突然どうしたの?」


「いいからー!」


「いませんよ。でもあの、平乃。どうしてそんなことを聞くの?」


「ふっふっふー、よくぞ聞いてくれました!!」


「平乃……貴女なにか変なこと考え付いたみたいですけれど、貴女がそういう企みをするときはろくな結果になった覚えが……」


 希が疑わしげな視線をあたしへ向けてくる。何故。


「いやいや大丈夫だって! あたしすっごい良いこと思い付いちゃったからさあ。まあ聞いてよ希、変なことじゃないしちゃんと希の為になるし!!?」


「そ、そうなの? 平乃がそこまで言うのであれば、聞くだけなら……」


「よしゃあっ!! じゃあじゃあ、説明してしんぜよう────」


 ◆◆◆◆◆


「────なあなあ、宝田希ってさ。今日もあの人めっちゃ告白されてるらしいぜ」


「……それがどうしたんだ? いつもの話じゃないか」


「よくあの人の事を見てるだろ? キミ、あの人のこと好きなのか?」


「……いや、違うけど」


「いや俺っちの目は誤魔化せないぜ? キミは宝田希の事が好きだ! そうだろ!!?」


「違いますけど」


 はそう答えた。


「そう言いつつ内心ではラブコールを送ってるってワケか!!」


「ラブコールて」


 目の前のそいつは何やら俺が宝田希の事を好きな方が好都合な様で、少しも会話が成立する気がしなかった。


「いやぁ俺っちの曇りなき眼は誤魔化──」


「あ、平乃からメッセージ返ってきたわ。悪い、席外すな」


「そっか!! 悪かったな!!」


 ちょうどよく幼馴染からメッセージが届いたのを言い訳にそいつの目の前から姿を消す。


「…………にしても、誰だったんだあいつ」


 朝一に平乃に送ったメッセージの返事が来ない所か既読すら付かなかったから、どうにもこうにも動きにくくて教室でボーッとしていたら変なのに絡まれてしまった。


『大事な話がある。放課後、屋上で話ができないか?』


 意を決してメッセージを送った俺は、まさか放課後まで既読すらつかないとは夢にも思わなかっ……いや、あいつスマホ持ってるとはいえ「下手に弄ると壊しそう」とか言って全然使ってないからちょっとその疑念はあったな。


 寧ろこのタイミングで既読が付いた事が奇跡なのかもしれない。オマケに返信まであるのだから、明日は雨が降るのかもしれない。


「『あたしも大事な話あるからごはんまでにしゅうごう!!』……なるほど」


 後半変換出来てない上に食い意地が見えるような文になっているのは、よく確認せずに打ったのだろうか……これ。ごはん、じゃなくて五時半だよな?


 現在五時二十三分。普通に走れば三分くらいか。


 ◆◆◆◆◆


「あっ、来た来た。五分前行動でよろしい!!」


「ぜー……はー……ぜー……はーっ!!!」


 の呼び出しに応じてちゃんと来てくれたようだ。膝に手をついて荒く呼吸してるけど、思いきり走ってきたのかな。五分前だし、時間には余裕あるからそんな大慌てで来なくても良かったのに。


「あの、平乃。もしかして……?」


 希がふらふらしながら息を整えてるあいつを見ておずおずと聞いてくる。あたしはそいつの背後に回ってばしっと背中を叩いて希に紹介した。


「そ。さっきも話したでしょ? こいつは美都みつ。家が隣で……幼稚園からの仲の幼馴染だよ」


「げほっ、……おい平乃、なんでここに宝田さんが居るんだよ」


「言ってなかったっけ?」


「聞いてないぞ、大事な話があるってだけしか……」


「んじゃまっ簡単にかいつまんでてきとーにこのあたしが説明してしんぜよう!!」


「平乃、おい平乃?」


「何よ、今から説明してやろうってんじゃないの。静かに聞くってことは出来ない訳じゃないでしょ?」


「いや、平乃がろくでもないことを思い付いたのは分かった。帰って良いか?」


「駄目です。既に希には承諾を戴いてますから!! ね、希?」


「…………ええ、一応」


 希?? なんで目を逸らすの?? のぞみー???


「とにかくこれは決定事項です。あたしの決めたことなので」


「嫌な予感がするんだけど……」


 苦笑しながら頬を掻く美都。なんであんたまでそう言のさ!!?


「日頃の行いだぞ」


「美都に心読まれた!?」


 いやいや、あたしほど日頃の行いが良い人間は居ない……って希まで苦笑いしてるし!!?


「それで、平乃。大事な話って何だよ、勿体ぶってないで早く言ってくれ」


「勿体ぶってないですけど。茶々いれなきゃスムーズに話が進んでたんですけど。そこんところ美都君は分かってるんですかねぇ??」


「はいはい、ごめんねごめんねー」


 あまりに適当な謝罪。幼馴染のあたしじゃなきゃ許さないからね?


 まあ美都は昔っからあたしのお願いを突っぱねたりしなかったからね。あたしとしてはそこら辺信用してるわけなのですよ。いい奴だよ美都は。


「ねぇ美都、希の事をどう思う?」


「宝田さんを? ……いや本人の前で言うのか?」


「いーからいーから」


 あたしが促すと美都は怪訝そうにしながらも、答えてくれた。


「めっちゃ告白されてて大変そうだなー、としか」


「よし!! それでこそ美都だ!!!!!」


「おい平乃それ俺のこと馬鹿にしてないか?」


「いやいや。その方が都合良いなって思ってたんだ。ね、希?」


「え? いえ、まあ……そう、なの?」


「そうだよそうだって。美都って勉強頑張って私立の中学行って今だって学年トップレベルだから本当だったらもっと偏差値高い高校行けって親に言われてたのにこんな微妙なところに来たのはやっぱりメンタル強いと思ってるんだよね、あたしは」


「やっぱ平乃俺のこと馬鹿にしてるよな??」


「そんな!! あたしはすっごく尊敬してるんだよ美都の事!! クラスは違うけどさ、また学校一緒で嬉しいし? 勉強教えてくれるの凄く有り難いしさ」


「あっ、そう。で、結局何なんだ大事な話って」


 美都が顔を逸らした。照れてるらしい。


 ともあれ、流石に溜めすぎたきらいはある。あたしは満を持して美都に大事な話を切り出した。


「ふっふっふー、よぉく聞いてね!! 希のになってほしいの!!」


「…………は?」


「希の偽彼氏防護壁になってほしいの!! ほら、希への告白が公害レベルなのは美都も知ってるでしょ? そういうの無くすにはどうしたら良いかなぁって考えた結果あたしは希に彼氏が出来れば良いと思ったわけですよ。でも希ってば親御さんに恋愛禁止って言われてるからさ、彼女が居なくて色々事情を分かってくれて尚且つ希に対して間違っても気を起こさない人で何よりあたしが信用出来る人じゃないと頼めないし、そんな人って美都しか居なくて……ね。でも希の彼氏としてちょっと目立つことになるし、もしかしたら変な嫌がらせとかされると思うんだ。だから美都が無理なら無理で良いんだけど、どう?」


「…………宝田さん、これ、大丈夫なの?」


 あたしのお願いに驚いた美都が、ひきつった顔で、希へと向き直る。希は何かを諦めたかのような顔で首を振った。


「ええ、私の事を考えて行動してくれているのは確かですから……ただちょっと平乃は先走り気味かなと、もう少ししたら落ち着くとは思いますから断っていただいても構いませ「希は今こう言ってるけどさっき『恋愛にはかなり興味ある』『私も小説みたいな恋がしたい』って」平乃っ!!!?」


「…………いや、平乃の言うことだからな。それ聞いて別に宝田さんに関してどうこう思ったりはしないから」


 美都は本当に平然としていたけど、あたしが暴露しちゃったせいで希は顔を真っ赤にして屋上の隅っこに蹲った。


「うう……平乃……、なんで言っちゃうんですか……?」


「だって美都なら大丈夫だからね。口堅いし」


「いやそういう問題じゃないだろ」


「まぁまぁ。でも美都が希の彼氏になってくれたら結構有り難いんだよね。あたしのためと思って!! お願い!!」


 あたしは手を合わせて頭を下げた。美都は困ったように希を見て、諦めたようにため息を吐いて。


「…………宝田さんの彼氏を演じることが本当に平乃のためになるのか?」


「……っ!! なるなるっ!! すっごくなる!!」


「…………そっか。じゃあ、俺に務まるか分からないけど。えーっと、宝田さん?」


 あたしがそう言ったら美都はどうしてか一瞬変な笑いを浮かべた気がしたけれど、すぐに希に歩み寄って手を差し伸べた。


「国本美都です、これからよろしくね、宝田さん」


「こ、こちらこそ……よろしくお願いいたします……」


 そして二人は握手した。


 ────こうしてあたしの手によって偽カップルの成立したのである!! ぱちぱちぱちー!!!


 これでもう希は告白野郎共に悩まされることはなくなるし、そうして空いた時間であたしは希と遊べるし、美都とも遊べるかもしれない!! 一石二鳥!!


 やったね!!

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