鍵が開いた(Twitter300字SS)
伴美砂都
鍵が開いた
アパートは二階なのに見晴らしがよくて、川向こうに鉄塔がみっつ並んでいるのが見えた。よく晴れた梅雨入り前の夕方で、空は紫色に染まっている。沙央子のほうを見ると、少し緊張したような面持ちをしていた。管理会社に渡された鍵を、鍵穴に挿す。かちり。
「あ」
「え?」
声を出してしまってから彼女ははっとしたようで、ううん、と言った声があわてていた。
「……あのね、鍵、開いた……開いたなって、思って」
髪をかけた耳が赤くなっていた。当たり前に鍵は開いた。でも、それが彼女にとってとてつもなく大切なことだったのだろうと、思った。うん、開いたね、と言うと沙央子は頷いた。そして、ぼくたちは、はじめてふたりで暮らす家に帰った。
鍵が開いた(Twitter300字SS) 伴美砂都 @misatovan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます