第13話 別府市 湯の町(絵の国 豊前豊後P5より)

 たった4Pの内容を膨らませて、やっと別府へ到着です。


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「『別府でございますが』」


 朝になり、『絵の国 豊前豊後』という本を見ながら朝美氏が言う。


 この言葉は船のサービスマンが別府に到着したので起こしに来た時の声だったという。


 時刻は今 6時。


 船内ではサンドイッチとコーヒーの販売が始まっている。

 この時間になると二等船室では電気が点くのでだいたいの人は目が覚めるのだそうだ。

 絵の国の作者は朝方になって寝たため、朝食のドラを夢うつつに聞いたそうだが私は11時には寝たので、館内放送がはっきりと聞けた。

 甲板に出ると船はもう、別府間近に………………



「…………あれ?ここ、どこ?」



 いつもの別府が

 高崎山が右手にあり、それに遮られて鶴見山が見えないということは…………

「当船はまもなく、西に着きます」

 とアナウンスが流れる。


「朝美氏、これはどういうことだね?」


「いやー、一時期は別府からも神戸にいけたんだけど2012年から大分ー神戸、別府ー大阪で便が固定されててね。神戸からだと西んだよ」

 どうりで船の手配とか行き先を見せなかった訳だ。


 今現在、関西から別府への船便は大阪南港フェリーターミナルのみとなるらしい。

(※2019年から2021年現在)


 初手から企画倒れじゃないか。


 そんな文句を言いつつ、朝食を食べてめったに見れない海からの大分を眺める。

 半日の船旅も終わり、もうすぐ下船である。


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「うわ、すっごく混んでるね」

 船と言うのは出口は車と徒歩の2か所しか無い。

 なので、下船時には大変混雑するのは宿命である。

「この時間だと、店はどこもやってないし、ある程度 人が降りるのを待った方が楽だよ」

 そう言われて売店で待機していたら、5分もしないうちに混在は解消され、スムーズに地上に降りれた。


「じゃあ、これから別府港に行こうか」


 初めて見る西大分港で朝美氏は、そう提案してきた。

 鬼か。


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 港を降りると、徒歩でいける距離に西大分駅があるらしい。右手に小さな温泉も見えるが始まるのはまだ後の話らしいので泣く泣く駅に向かう。


 そこから東別府まで電車にのれば自宅に帰れるので、そこから車で別府港まで行って旅を再開しようというわけだ。


 …なんだろう、この茶番は。


 なお、絵の国豊後の本では『入港の喜ばしげな喧噪が始まった』とあるが、早朝のためか乗客のテンションは低めで、黙々と降車デッキに列を作っていたのが印象的だ。


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『別府は湯の町だ。だが、決して、単なる温泉場ではない』



 絵の国では、この一文から別府の紹介が始まっている。

 昔の温泉宿というと、木賃宿。

 素泊まりで客は米や食材を用意して自炊するのが主流だったらしい。


「このころは民家が少なかったからかな?至る所に噴気が上がってたみたいだね」

 目の前に広がる石垣地区は1960年から住宅が建ち始めるが、それまでは無人の広野だった。なので別府港からでも鉄輪や今井(地獄巡りより東にある地域)の湯けむりが見えたのだろう。

 今日の別府は雨模様なので、良く見えないのだが…


「でも鉄輪を歩くと水路から湯気が立ち上ってるよねー」

 と朝美氏が補足で言う。

 昭和の初期に暗渠が出来て見れなくなるが、流川は温泉の川だったし、投石通りも温泉が流れていたので、昔の別府は湯けむりだらけだったのだろう。 

 浜脇付近では干潮時に朝見川の砂浜から湯気が上がっている。

「宅地販売されるようになったのが1955年以降だからねー。それまでは別府駅と浜脇、あと海岸線に家があるだけで、ほとんど原野だったんだよ」

 今立ち並ぶ住宅街を見ると信じられない話である。

 しかし、大正時代に描かれた絵はがきを見ると、石垣原のあたりは皆草原である。

 きれいに道路が整備されたのは昭和初期。住宅地の区画整備が行われたのは戦後、開発公社ができてかららしい。

「まあ戦前は別荘地として売りだそうとしてたみたいだけどね」

 新別府と呼ばれる地域やルミエールなど、市街から少し離れた土地は保養地や別荘などの閑静な場所として予定されていたらしい。

 今では近くに住宅地があり、その面影はない。

「今なら湯布院の別荘地が人里から隔離された場所で、当時の環境に近いかもしれないね」

 と朝美氏が言う。


 なおこのころから『地質学者は別府には6つの地下流が交差している』と絵の国には書いてある。

「そうなんだよ、別府の泉源は複数あるから7種類の温泉が楽しめるんだよ。皮膚病に効くアルカリ泉に、血行をよくする鉄泉…」


 長くなりそうなので割愛する。


 温泉案内に続いて絵の国では

『別府は山はあり、別府湾という海がある雄大な自然と開放的な海がある、景観に優れた土地であるのは文句のつけようがない。

 ここから雄大な山脈を見下ろせる久住まで含めればすばらしい自然を見ることができるのは確かだ。おまけにスポーツにも力を入れ、大きなグラウンドが二つ、温水プールもある。各地に独立した百の顔を持つ温泉地』

 と様々なレジャーが存在する事を記している。

 言われてみれば、それは80年たった今でも変わることなく続いている。

 野球場が二つあるしラグビーワールドカップ用のグラウンドもあるらしい。

 温水プールは移転したそうだがまだあるし、扇山に登れば凄い景色がみられるらしい。

 その後に、田中氏はこう記述している。

『たいていの温泉地は三四日も居れば飽きてしまい「お父さん、もう帰うよ」などと息子が言い出せば、どんなに温泉好きの親だつて、さうさうそうそう尻を落ち着けて居るわけには行かない。(略)が、別府でだけは、うした悲劇は起こらないだう。老人は老人で、若いものは若いもので、それぞれ、自分に適する慰楽の道を発見し得るからだ』(絵の国P8~9)

 まあ『たいていの温泉地は三四日も居れば飽きてしまう』というのは言い過ぎだが、何度来ても新しい発見があるのは確かだろう。

 なにしろ市全体が温泉観光地なのだから… 

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