第8話 別府の温泉は世界一 あと 安い

 別府温泉は元々100円で入湯できたのですが、消費税が10%に値上げされた後に120円から200円とじわじわ値上げされたので、備忘録的に書いてみました。

 消費税は悪法。


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 別府を語る上ではずせないのが温泉だろう。


 人が入浴できる温泉の湧出量 世界一。


 世界二である湯布院にダントツの差を付けて、今日も別府は至るところから温泉が湧き出ている。


 中でも特筆すべきはその安さ。


 公営温泉だと120円とか200円などのびっくり値段が目白押し。

 まあ、その代わりに石鹸やタオルなどは自前で用意しないといけないが、生活のための温泉ならばマイ桶からタオルまで用意しているのが当たり前なので合理的である。


 というわけで、今日は後衛温泉でも一番の広さを誇る浜脇温泉。湯都ピア浜脇の一階にある浜脇温泉に入湯することにした。


「ちなみに、別府温泉は源泉かけながし、水で薄めずにそのままたれ流しているから (寿温泉や梅園温泉を除く)」

 と朝美氏からアドバイスをもらう。

 なんでも別府駅ちかくの不老泉という湯では欧州系の方が知らずに足をつけたとたん「AUCH!!!!」と叫びながら、あまりの熱さに飛び上がったのだという。

「現場にいたおじいさんの話だと真っ白な肌が熱であっというまに赤くなったそうだから、入るときにはなるべくお湯の湧く口から離れた場所から入ると良いよ」

 と言われた。

 

 何そのトラップ。


 恐ろしい犠牲者の話を聞きながら、私は温泉に挑むのであった。

 

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 湯トピア浜脇は公営の立派な建物の一角、いや一階にある温泉である。

 かつては高等温泉と普通の温泉に分かれていたそうだが、建物が古くなったので近代的に改修。1階が大衆用の温泉。2階はフィットネスジム付きの高級温泉として営業しているらしい。

 当然私は一階の大衆浴場だ。


 入り口の受けつけの方に200円を払うと、げた箱に靴を入れて のれんをくぐる。

 値段を二度見した。

 有名観光地の温泉で、料金がたったの200円である。

 足湯か手湯の値段だろうか?某有名温泉では足湯がこの値段だった。

 この行動を高いと勘違いしたのか

「数年前までは…」

 と朝美氏が恨めしそうにいう。

 いや、それでも十分安いからね。

 他の温泉旅館とか公営温泉でも650円とかざらだから。

 と言ったら「そんなに高いんなら色んな設備が有るんだろうね」と言われた。


 なお上田の湯 九日天温泉という所は130円。七つ石温泉は100円で入れるそうだが、またの機会にしよう。


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「うわぁ」


 目の前にはアイランドキッチンのような脱衣箱。

 そして、そこから階段で下りたところに広々とした長さ10m幅5mくらいの大浴槽が一つ。周りには洗い場というシンプルにして贅沢な温泉がある。

 全体の広さだけで言えばスパランドと同等の広さだ。

 ジャグジーとかサウナ・電気温泉などのオプションは一切ない。

 体を洗うという事に特化したコスパ最強の湯といえるだろう。

 脱衣所には自販機もあり、湯からあがれば半裸のままで冷たい飲み物が飲めるのである。ただ…

「脱衣所と浴室が一体化しているのって珍しいね」

 というと、朝美氏が

「よそは別々ばかりなの?」

 と逆に珍しがられた。


 なんでも別府の温泉は地下を流れる温泉をそのまま浴槽に流すため、床よりも低い位置に浴そうがあるのだという。

 通称 床下温泉。

 ふつうの温泉が地中深くをボーリングで掘り進みポンプで汲み上げるような苦労がないので安いのだろう。

 別府駅前の海観寺温泉は改装で地続きになったけど、浜脇や竹瓦温泉や永石温泉は昔と変わらない床下温泉だという。

 そして、脱衣所と浴槽に仕切り壁がないので防犯効果もある。

 なんともダイナミック。温泉王者 別府の力強さを感じる。


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「じゃあ、体を洗ってから入ろうか」

 そういうと朝美氏はピラミッド状に重ねられている桶を一つつかむと、浴槽のお湯を汲み、洗い場のいすに景気良く掛け、ついで体に浴びせた。

 どうせ掛け流すお湯なのだから、最初くらいはそちらを使おうという事なのだろう。

 私も真似して椅子、体の順にお湯をかけ


「熱っっっっっつつつつ!!!!」


 とあまりの熱さに叫んだ。


 なにこれ、熱すぎるでしょ。何で朝美氏は平気な顔していられるのだろうか?体の神経が温泉熱で焼き切れているとでもいうのだろうか?

「なんかものすごく失礼なこと考えてない?」

 いや、だってこんな熱い熱湯を浴びて平気でいられる方がおかしい。


「いや、あそこの壁を見て」

 すると、そこには【←ぬるい あつい→】と浴槽の仕切りに従って矢印が書かれていた。

「別府の温泉は観光客の方には熱すぎるからね、仕切りで熱さを調整しているんだよ」

 だから、ぬるい方のお湯を汲めばそこまで熱くないのだと言う。

「いや、朝美氏は私と同じ場所でお湯を汲んでたよ」

「…………あれ?」

 別府温泉恐るべし。いや、別府市民の肌 恐るべし。である。


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 持参した石鹸とスポンジで体をこすって十分汚れを落とした我々。

 さて、これで準備は整った。


 なみなみと注がれたコップ酒のように、こぼれんばかりにあふれだす浴槽の中に足を入れる。

 体と同量のお湯が浴槽の縁から流れ出し、足を延ばしたまま、肩まで浸かる。

 今は他の御客が少ないので浴槽はほぼ貸し切り状態。行儀悪いが両手も広げ大の字になって温泉を堪能する。

 これほどの贅沢があるだろうか?

 たとえ1億の金を持ち、豪邸を建ててもこれだけの贅沢はできないだろう。

 それが市民税の力で、誰でも富豪のごとき至福の時間を味わえる。

 これは別府でないとなかなかできない贅沢だ。


 ………ごめん。すこし訂正。


 さすがに肩まで一気に入るのは無理だ。

 ゆっくりと、熱い湯に体を慣らし、ゆっくりと体育座りをするように体を沈めていく。

 そして、1分ほどして熱に体が慣れて、周りの邪魔にならないのを確認してから足を伸ばす。

 なにしろここは別府なのだ。

 潤沢な湯ゆえに水を混ぜたり、循環させて使い回しをさせもせず、ただ地下に流れる湯をそのまま垂れ流す。

 瓢箪温泉というところが竹篠に一度温泉をかけて熱を放出してから流す方法で適温に調整しないと入れない程、源泉の湯は熱いらしい。


「あ、ちなみに浜脇温泉は源泉が枯れて、他の温泉を回して貰ってるんだって。温泉も油田みたいな限りある資源だから大事にしないといけないね」


 …………なんで、その話を今になってするの?

 

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 源泉は別とは言え、別府温泉には代わりがない。

 

 二階分の高さがある高い天井。

 広々とした浴槽。

 ガラスから見える竹林を模した風景。

 非常にすばらしい。

「ちなみに、別府温泉は体の芯まで暖まるから、肩こりや腰痛にも良いんだよ」

 なんでもインナーマッスルと呼ばれる体の内部まで暖まるため、凝りや血行不良が一時的に改善されストレッチなどをすると歪んだ体が矯正されるらしい。

 リウマチにも効果があるそうで、温泉学という学問が生まれたゆえんという。

「へえ、それじゃ私にはぴったりかもね」

 5分入って、5分外で湯冷ましし、再び5分はいる。

 こうして体内までしっかり暖めた状態で、軽く肩を伸ばしてみる。

 ベキバキゴキという人間が立ててはいけない異音をたてて、肩が本来あるべき場所に戻った気がする。

 ついでに外でアキレス腱を伸ばしながら、腰を回すと骨盤から背骨にかけてもゴキゴキ音が鳴り、バキンという音がした。(実話)


「ここまで、体が凝っている人、初めて聞いた…」


 やめろ。私を重病人を見るような目で見るんじゃない。

「人間の体は筋肉が骨を支えて、骨が筋肉を整えるんだけど…ここまで体が歪んでた人は初めて見たよ。幸町の方に人間の体を正常な位置にもどす道場があるから、そこに行った方が良いんじゃない?」

 と言われた。


 そのあと、もう一度湯に入ってから隅の方でラジオ体操っぽい動きをしたら、やっぱり異音が鳴り響き、すっごく肩と腰が軽くなった。

 別府に来て良かったと思う。


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 この後、風呂からあがって自販機で『スコール』という九州を中心に販売されている乳性炭酸飲料を飲み、ベンチに腰掛けて休憩する。

 温泉を出ると、となりに浜脇公民館という施設が有り、その一室に図書館が有る。

 学研の学習漫画とか1980年のテレビアニメの書籍などがあり、『青いブ●ンク』とか『アニメ 三銃士』『おねがい●サミアどん』などの話には聞いた事が有る話がずらりと並んでいた。

「ここはね。大人の人が学校の図書館に帰って来たみたいって評判なんだよ」

と朝美氏が言いながら、学研の『地名のふしぎ』という本を読んでいる。

 ……どうみても小学生が図書館の本を読んでいるようにしかみえないが、この穏やかな午後を壊したくないので黙っていることにした。

 子供の頃、小遣いがないので読めなかった本たちの数々に手を伸ばす。

 忍者と手品のひみつ。とか、冒険のひみつとか大人になって読んでも心躍る本が所狭しと並んでいる。これを読むだけで一年はかかるだろう。

 お金が有っても造れない宝物のような図書館。

 これが温泉に入った後の休憩室として読む事が出来るのだ。

「もう、私ここに住む。趣味の本を買ってここに置いて私の本棚にする」

 温泉で精神のタガが外れたようで、そんなたわごとが駄々漏れになるほどリラックスできた。

 体と心を癒したい人はぜひ浜脇温泉に入るべきだろう。

 

 ここには金では買えないものがいくつもある。

 別府の温泉は日本一なのだ。


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 書いてたら浜脇温泉に行きたくなりました。

 料金は変更されるかもしれませんが、日本全国で見れば安いのは間違いないでしょう。

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