第6話 ブラ○モリの風景を訪ねて…2019年の流川と暗渠の今(後編)

 伊能忠敬の石碑から海側…東へと進むとブラタモリで流川を説明した金物屋さんが見える。そこをさらに進むと菊屋というお菓子屋がある。なんでもかつて存在した長久堂(ざびえる本舗の前身)と共に大分を代表するお菓子屋さんだとういう。

「春だといちご祭りとかやってるんだけど、今回はこの店舗の柱を見てみよう」

 そう言われて花崗岩を使ったような石の柱を見る。

 そこには緑色の金属プレートに『流れ川通り』と書かれている。

 この店の前を今でも暗渠が流れているらしい。

「この下に石の標識があるんだ。ほら、ここ」

「『名残橋』?」

 四角い石柱に掘られた名前を見る。

「昔、ここには橋がかかっていてね、流川の遊郭で芸者とお客さんが名残を惜しんで分かれる橋だから名残橋と呼ばれたらしいよ」

 何でも明治時代に書かれた『別府温泉繁盛記(菊池幽芳 )』というエッセイに書かれている話だと言う。

「この名残を惜しんだ橋を流れる川を名残川と読んだのがなまって、流川になったとこの本ではかいてあるんだよ」

 へー。

「まあ、教えた人が適当に言っただけかもしれないから、本当かどうか分からないんだけどね」

ちょっと感心した私が馬鹿だった。


 ここを進むと我が根城がある楠銀天街へのアーケードが延びる。

「あれ?」

「どしたの?」

「…ここで、地図が途切れてる……」

 手元のブラタモリを見ると、ここで拡大地図が途切れていた。

 一応全体図はあるのだが、商店街の入り口は小道が多くてどう進むのか分からない。ナナメに3本道が延び、正面は更地の駐車場。どの小道を入るべきなのか現地人ではない私には正しい道が分からなかった

「えー、ちょっと見せてよ…」

朝美氏がしげしげと地図を見る。

別府は自分の庭と言っていたしこれくらい一目見れば分かるだろう。

「……あれ?これどこだろう」

 ……ちょっと待てやコラ。

 あれだけ大言を吐いて分からないとはどういう料簡なのだろうか?

「ここらへん、取り壊…開発が進んで様変わりしているからね。ちょっと分かりにくいんだよ」

 …今、かなり不味い事言わなかったか?この観光大臣。


 1分ほどパラパラとページをめくっていると「あ、これ寿温泉を通ってるんだ」というと右折、商店街を南に進みだした。

 商店街に入ると右手に別府八湯温泉道という看板がある。

「ここは別府の温泉を盛り上げようと有志が発足した会なんだ」

 どうやら、ここで色んな温泉の情報が得られるらしいが現在「寿温泉の番台にいます」と表札がかけられていた。


 ここを斜めに向かうと、椰子っぽい木が入り口に生えたハワイアンな温泉があった。何となく大正レトロな感じのする建物だ。

「ここが寿温泉。明治時代の絵はがきでは」

 この道を東側にすすむと、右手にちょっといかがわしいお店、左手には広い駐車場がある通りにでた。

「ここ、夕方時だと黒服の人が呼び込みしてるみたいだから注意してね」そんな補足説明はいらない。お茶の間のエッセイに裏社会要素をぶち込まないでほしい。


「この駐車場は、昔 別府温泉って名前の温泉があったんだよ」

 へえ、別府温泉って地域の温泉名以外にも存在したんだ。

 言われてみれば、温泉施設の跡っぽいコンクリートの基礎が見える。

「けどお湯の出が悪かったり、近くに楠温泉、寿温泉、床底温泉、竹瓦温泉、梅園温泉、不老泉、観音寺温泉があったんで統一されたみたいなんだよね」

 温泉が多すぎる。

 特に寿と別府と床底温泉は20mも離れていない。

 そこまで近所にあるなら統一しても良いなというのもわからなくもない。

 そんな話を聞きながら「ホステス募集」の看板がかかったまま廃業しているスナックの前を通ると朝美氏は右を指さし

「ここが暗渠ではない流川が見える場所だよ」という。

 月極駐車場。

 そう書かれた明らかに私有地っぽい敷地の反対側に水路らしい部分が見える。

 真っ白な金網に阻まれた水路は長年の風化で痛んでいるようにも見える。水跡が見えないので氾濫を起こした様子は見えない。というか敷地に入れないので

「中が見えないじゃん!!!!」

 そう。現在の流川は見ることが出来ないのである。

 いや、見れないことはないのだが写真とか中の様子を描写すると言うことは「私は不法侵入しました」と告白するのも同義。みせられないよ案件になる。

 ついでにそこから先に行った、空き地の暗渠というのも見に行ったが、こちらも私有地であり近くでは当然見れず「なんか蓋で塞がれた空き地がある」程度でしかなかった。

 はっきり言って「斜めに進んだ裏道をただ歩いただけ」

 これ以上の感想はない。

「地味すぎない?」

「やっぱり、そうだよね」と朝美氏は言う。

 ここまで地味なら、最初に教えてほしかった。

「もしかしたら歴史のある川の上を歩くのが好きなだけなのかと思ったんだよ」

 そんな人間いるか。…いや、世界は広いから地質学者とかなら大興奮かもしれないが、私にそんな特殊能力はない。

「はぁ、結局暗渠は見れないし、本当に川が流れているのかもわからずじまいか…」

 3kmほどの無駄な散歩をしただけ。この企画は失敗である。がっくり肩を落とす私を哀れに思ったのか、朝美氏は慰めるように言った。

「……暗渠の中が見たいなら、松原の方で見えたんだけど……」

 それを早く言ってくれ。

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