第4話  別府銀天街 かつて(1945年)日本で一番栄えた商店街

 本作は3回に1回、毒を吐く時があります。

 ガイドブックでは絶対に見る事のないありのままの別府をご覧ください。


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 本来のエッセイとは異なるのだが、私(根来)の根城とも言える、根拠地を紹介しないわけにはいかないだろう。

 私は別府の一等地、別府の銀座と呼ばれた銀天街という商店街に下宿している。

 情報収集の基本は街の中心地を拠点とすることだ。

 ライターとして、そこらへんはぬかりがない。

 ここに移住しようと思ったのも商店街の二階が、たったの月5千円で借りる事ができたからである。(※この作品はフィクションです)

「第二次世界大戦で別府は爆撃がなかったんだよ」と朝美氏はいう。

 大分市と宇佐市はそれぞれ飛行場があって軍事基地として爆撃をうけたらしい。


 ところが、世界の観光地として有名な別府は爆撃の標的から外され、大分が爆撃される前には「別府は安全だから女子供は別府に避難しなさい」と米軍がビラを配ったという。


 まあ、罠と判断されたらしいが。


 そして予告通り大分は爆撃され、別府は無傷だった。

「だから戦後に人がたくさん集まったんだねー」

 インフラが無事な別府には米軍が今の自衛隊宿舎に駐屯し、ほかの地域で焼け出された人が彼らを相手に商売をしようと多く集まった。

 そして浜脇港から別府駅をつなぐ商店街として毎日混雑するほどのにぎわいを見せていた。

 私が住む別府銀天街とは、そんな由緒正しい場所なのだという。



 以上の前情報を聞いて、さぞ立派な場所なのだろうなと私が期待しても責められる筋合いはないだろう。


「うわぁ…………すごい………」


 それは、賞賛ではなく、化石の保存状態の良さにびっくりする畏敬の念に近かった。


 寂れた商店街では閉店した店のシャッターが立ち並ぶので『シャッター街』と呼ばれるが、シャッターの裏側が崩壊したりシャッター自体が錆で崩壊しかかっているシャッター街というのは現在の日本では珍しいのではないだろうか?

 別府は一歩未来を生きている街らしい。

(※しつこいようですが、この作品はフィクションです)


『昭和60年代から平成を飛び越えて閉店したままです』

 といった出で立ちのお店が建ち並んでいる。

 アーケード街の店前で、たき火でもできそうな鉄製のゴミ箱が置かれた商店街というのを私はみたことがない。この銀天街以外では。

「お褒めにあずかり光栄の至り」

 ほめてねえよ。

 というか私がすむ家ってもしかして…

「君の部屋へようこそ!」

 そこには、最の低、さらに底の野宿からからみれば、多少はましといったオンボロ店舗がある。


 ~戦後から改修もせずに生き残りました~


 そんな風体のシャッター店舗だ。

 シャッターは所々錆び付いて、ひどい部分は錆が崩壊している。

 錆とは鉄が酸素と結合することで金属の特性である展性(叩くとのびる性質)や耐久度が落ちる現象で、湿気や海沿いの塩分と作用して発生することが多いという。

 海に近い別府で、ろくに手入れもしてないのにこの程度で済んでいるのは奇跡と言えるだろう。(むっちゃ皮肉で言ってます)


 その奥はガラスで防御はされているのだが、シャッターを収納する軒に空いた穴からのはいかがだろうか?プライバシーは?

「大丈夫。昼間でもこの通り人なんてほとんど通らないから」

 それは大丈夫とはいわない。


 というかセキュリティ的にやばいだろ。それ。

(※しつこいようですが、この作品はフィクションです)


 何だろう…商店街で家賃5000円(温泉にかかる税金、入湯税込み)という超格安物件なのにちっとも安いと思えないよ?むしろ高いと思えてしまうような部屋に住むことになるとは思わなかった。

「……ホームセンター……」

「え?」

「ここで一番近いホームセンターどこ?」

「えっと国道10号線を北上するとナ○コがあるけど」

 さっそくスマホで検索すると電話をかける。

「あ、もしもしナフ○北浜店さんですか?断熱材のスタイロフォームF3と業務用集塵機(掃除機の強力版)っていくらですか?あ、そうですか安いですね。じゃあそれを6枚と一台銀天街まで配達してくれます?………いえいえ開業じゃなくて下宿の予定でして……はい。罰ゲームに聞こえるかもしれませんが…だまされてここに住むことになりまして。ええ、ご同情ありがとうございます」

「今、家主に対してすごく失礼な会話が聞こえたんだけど……」

 ととなりで何かがジト目でつぶやいてるが無視する。


 中を覗いてみると案の定、ほこりだらけでひどい有様だった。

 どれくらいひどいかというと「昭和50年代に最後の住民が出ていった安アパートがそのまま放置されて残っていた」くらいにひどい。

そう、皮肉で言うと「なんでわかったの?」と言われた。


 当たってるんかい。


 とりあえず私は、ぼろぼろで雑草でも生えてそうな畳を撤去した。畳の下から昭和30年の百円玉とか出てきたが見えなかった事にする。

 40年ぶりに解放された窓(錆落としをかけた後、ハンマーで留め金を叩いてギリギリ開封できた)からよどんだ空気とほこりを一掃すると集塵機で六畳一間の部屋を徹底的に掃除して、隣に漏れないように目張りをしてからバルサンをたく。

 終わったら床に断熱材をしきつめれば支障はないだろう。


 オフィスビルで仮眠をとるかのようなひどい状態だが、これで寝るのには事欠くまい。

 明日空気清浄機と床用のタイルカーペットでも購入して見た目だけでも人が住める部屋にしよう。


 よくもまあこんな天然記念物みたいなアパートが残っていたものだ。昭和の町って感じがプンプンする。

「それ国東の観光名所…」

 と大家が言うが、ここもなかなかのものだろう。


 かつては毎日がお祭りのように客が往来した、昭和の大商店街もいまでは通る人はいない。

 別府の中心地に近いのに、誰もいないかのような隠れ家。これが私のホームとなった。


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みなさんの市にはシャッター街はありますか?

大分だと中●駅とか第二商店街あたりが80%位シャッターになってますが、こちらもなかなかのものです。もう一度地震が来たら物理的に亡くなりそうな光景なので興味のある人はグーグルとかで確認して見ると面白いものが見えるかもしれません。

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