第2話 別府駅前手湯

登場人物;

 根来迅八ねごろじんぱち(♀);和歌山産のフリーライター。家賃の安さとエッセイネタを求めて別府に移住した。

 別府朝美べっぷあさみ(♀);エセ幼女。別府生まれ。別府銀天街をネグラに平成から令和の別府を案内する。

 ※本作はフィクションであり、土佐日記のような作品です。


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「さ、まずは別府駅から、すぐ入れる温泉を紹介するよ」

 朝美氏はそういうと駅をでてすぐに左手にある、ドーム上の骨組みがついた円形の台座が見を指さす。


「これがだよ」


 足湯ではなく手湯?不思議な名前である。

「ここは元々『女神像』という石膏像があったんだけど、駅が改築されてから別府観光の父である油屋熊八さんの銅像と、この温泉が設置されたんだよ」

 と温泉浴槽に手を突っ込みながら解説される。

 浅い浴槽の中心ではお湯が噴水のように溢れている。かけながし温泉と言うやつだろう。手前には別府温泉(手湯)とプレートがある。

 ほかの観光客と同じように腰の高さほどの浴槽に手を突っ込む。


 暖かい。


 というか熱い。


 透明で透き通った温泉の熱が手先を伝って血行を良くしてくれている。

 泉質が良いからか、キーボード入力で筋肉痛となった手の筋肉がほぐれていく…気がする。

 別府に移住した以上は、この温泉に毎日入れるのだから、筆者はこれからとても健康になれるだろう。原稿料が入る限りは。


「元々、ここは無料の足湯だったんだよ~」

 とすでにお湯に手を浸けている朝美氏が気の抜けた声で言う。

「普通足湯が一般的よね?」

 有名な温泉などでは足湯はあったが手湯は聞いた事が無い。

「なんだけど、衛生上の問題とか回転率の問題があったのか、改装して手を浸ける手湯になったんだよね~」

 との事である。


 なんと恐ろしいことに、この手湯も、昔の足湯も朝美氏の話によると無料だったという。

 別の温泉地へ行ったときは【足湯が200円入浴は600円】だった。それを考えると、文字通りなのである。

 おそるべし、別府。


 なので『無料だったら入らないと損』そう考える客が多かったのだろう。

 足湯の場合、靴下を脱いで、入った後にはタオルで足を拭かないといけない。

 そうなると、軽く体験するだけで2分。長湯を楽しみたい人なら10分は滞在するかもしれない。

 団体客の場合、交代で入ったとしても20分くらいかかる。


 だが、手を浸けるだけなら何の準備もいらない。

 となりの子供はタオルで手も拭かずにそのまま走り去って行った。

 なるほど、非常に理にかなっている。

「駅前が混雑したらたいへんだもんね」

 と、朝美氏がいう。

 大勢の観光客を抱えた場所故のアイデアなのだろう。おまけに別府が湯の町であることもアピールできる。

 無料の試供品を提示して、足湯や温泉でお金をいただこうというわけだ。良いモニュメントである。


 そう言うと朝美氏は首を傾げた。


「無料の足湯だったら、別府駅前商店街にある梅園温泉にあるし、茶房たかさきってお店で


 は? 馬鹿なの?


 もう一度言おう。


 馬鹿なの?


 せっかくの温泉資源があるのに、何でそこまで大安売りしているのだろうか?

 ●●温泉なんて一番やすい公共温泉でも650円。通常は1000円位する。

 普通の銭湯だって和歌山だと最低300円である。

「別府の場合、公共施設の安い温泉だと石鹸やシャンプーはないからねー」

 なるほど。必要最低限だから安いのか。

「ちなみに、公共温泉はどこでも100円だったんだけど、消費税が上がったせいで110円に値上げして、最終的には200円になるみたいだよ。だから高くなる前に入った方がお得だよ。ちなみに寿温泉とか梅園温泉みたいに民間が管理している温泉は200~300円になるから注意ね」

 前言撤回。石鹸無しでも十分安いよ。


 どこの世界に200円で入れる温泉があると言うのか?

「ここ」

 朝美氏はどうだと言わんばかりに薄い胸板を張る。


 どうやら、ここは日本で一番 温泉の入浴料が安い町らしい。

 西にそびえる鶴見岳のマグマで暖められた、温泉が湧き出る不思議な町。

 泉都 別府。


 ここでは本州人の温泉に対する常識は通用しないようだ。

 今日から、この一風変わった観光地について、つらつら書いていこうと思う。


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 茶房たかさき様はJR主催の『九州八十八湯めぐり』の温泉でもあります。

 朝見神社の近くの大分県別府市朝見1-2-11. JR日豊線東別府駅より徒歩15分。駐車場有です。

 別府で温泉ぶらり旅をする際には温泉情報の拠点として重宝する旅人交流の地でもあります。

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