大別府☆観光大臣物語~別府百景・大分千景~
黒井丸@旧穀潰
第1話 別府の観光地図は上が西
大分県が誇る世界の観光名所 別府市。
このお話は別府に移り住んだ女性ライターが平成から令和にかけての別府を、雑誌掲載形式のエッセイを書く。そんな土佐日記みたいなお話です。
これからもどんどん変化していく泉都別府を少しだけ記録に残したいと思います。
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「まあ、私は別府の観光大臣みたいなものだからね。別府のエッセイでネタに困ったらどーんと頼るといいよ」
そう二十歳を越えた身長136cmのエセ幼女はぺったんこな胸をドンと叩いた。
これは平成の別府を生きた大分県人の聞き書きエッセイである。
●大別府 観光大臣物語。
第1話;別府の観光地図は上が西。別府駅~別府の入り口~
大学時代からなんとなく居着いていた和歌山から住居を移すことにした。
私はペンネームを根来迅八という女性ライターである。
体力も協調性もないため、紀州は和歌山市の片隅で文章を書いて生計をたてている社会不適格者ともいう。
だがエッセイの安月給では家賃を払うのも一苦労なので『家の掃除と食事を共同で作る代わりに家賃5千円』という破格の条件を提示していたシェアハウスに移り住むことにしたのである。
APU大学という外国人の学生が多い別府では、そのまま起業する人も結構いて地方都市の割には先進的な制度が多く実施されているという。
大部屋にベッドが複数用意されている格安宿泊施設のゲストハウスも存在し、食事や家事を手伝うことで一泊千円で泊まれる所もあるという。
また、複数の学生が家賃を折半して下宿するシェアハウスもその一環だ。
そこに行くため新幹線で岡山・広島・山口を通過すると、小倉駅で降りて
「ソニックにちりん」
という大分行きの特急に乗り換える。
「にちりんは結構ゆれるから、酔い止めをもっていた方がいいよ!」と大家さんからメールで教えてもらっていたが、想像以上の揺れに気分が悪くなる。
電車で酔ったのは初めてである。
「べっぷ~。べっぷ~」という独特のイントネーションの呼び声に電車を降りれば、北に観覧車とそびえ立つ山、南には商店街と海が広がる別府の景色が私を出迎える。
南紀白浜や大阪の町とは異なる、九州の火山地帯が生んだ独特な光景だ。
ここで「さすがは湯の町別府。温泉の湯煙が所々立ち上っている」と書けば旅情があるのだろうが、駅周辺は開発が進んで高層マンションがいくつかあり、ここからだと湯煙は見えなかった。
巨大なカボスのベンチに座って酔いを散らすと、高低差1m程度の小さなエレベーターを降りて改札をくぐる。
別府駅は2013年に全面改装されたらしく、比較的きれいな駅だ。
そう思いながら駅を見回すと
『歓迎!根来様!』
そう書かれた横段幕を持って小学生らしい小さな女の子が待ち構えていた。
三つ編みの髪に、白いシャツにサスペンダーのついた紺色のスカートをはいた昔風の衣装。
ここは昭和の世界なのだろうか?
昔の漫画や映画でしか見た事のない光景に目を見張る。
だが、周りの駅員さんも珍妙な物をみるような眼で彼女を見ているので、どうやら彼女独自のサービスらしい。
ちょっとはずかしい。
「あの、根来と申しますが、別府朝美さんの家族の方でしょうか?」と尋ねると、
「それ、私だよ」と言う。
これが、別府観光大臣を自称するエセ幼女との出会いであった。
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まあ、気が向いた時に気が向いた記録を残そうと思います。
まじめな話だけでなく、調査中に町の人に聞いた別府のゴシップとか噂話とかガイドブックには絶対のらない秘境なんかも含めてです。
なおタイトルは話と何の関係もありません。別府エンジョイマップという観光用の無料地図たちは横長なので、南北に長い別府を90度回転させて西が上に書かれているので観光客は西を北と勘違いしている人がたまにいるから付けました。
こんな残念な方向で脱力したお話です。
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