仕立て直しをしてみたこと


 有り難いことに、このエッセイを最初から読んでくださっている方からコメントをいただきましたので、着物のお仕立て直しについて、ちょっとだけ紹介します。



 仕立て直しというと、まず思い付くのが『寸法直し』ですね。文字通り、寸法を直す仕立てです。

 着物という服装は、じつはとってもエコなのですよ。

 というより、元来の日本人は物が長持ちするように、また、取り替えが利く構造を好みました。

 日本家屋が良い例ですね。神社などは釘も使わず、全てが取り替えのきく、ずっと長くそこに存在する造りになっています。

 着物もそうなんですね。着る人にあわせて、作り替えることができます。これを知った時は「ほぅ」と感嘆しました。

 私の持っている絹の着物の多くは、お姑さんのものです。そのなかに、私のサイズにお仕立て直ししたものが一着だけあります。

 それはまんまと色無地を買わされてしまった(すみません、気に入ってます。でも仕立て直しとあわせたら、そこそこの金額を出すことになってしまってた失敗例)呉服屋さんでのことです。

 波模様に糸が織り込まれたベージュの紬でした。裏の布、八掛けがかなり痛んでいて。でも、もったいないという話になって。

 で、お仕立て直しを提案されたわけです。

 今、考えると、いわゆる『着物のドクター』とか銘打って、仕立て直しさせるヤツだと分かるんですが。

 当時は言われるままに、もったいないし、自分ぴったりになるならいいかな、と、直すことに。

 そこで知ったのが、着物という服は糸を解けば、ほぼ反物の状態に戻るということ。

 丈が長ければ短くでき、また、短い着物でも縫込ぬいこみがあれば―背中の辺りに余り布をたたんで縫われている状態です。つまり、仕立て直しを前提に作られているんです!―長くすることが可能だということです。

 横にも、幅出しといって調節が可能なんですよ。つまり、着回すのが普通の服だったわけです。

 絹はちゃんと管理すれば、孫の代まで―さらに長持ちする場合もありましょう―着ることができます。



 さて、ここでまた専門用語を。それは『洗い張り』という行程です。

 仕立て直しをする時に必ず行う行程。着物の糸を解いて、洗って、のしをあてて―アイロンみたいなシワを伸ばすヤツです―反物に近い状態に戻すことを言います。

 これね、本当に面白いです。着物の作りが見えて楽しい。

 だって洗い張りを終えたら、着物がべろーんと反物になってるんですよ!

 というのを何故、知っているかといえば。

 洗い張りだけして、仕立て直ししなかった羽織があったからなんです。

 この羽織も裏地の痛みが酷すぎて、表地まで痛んでしまうからと、洗い張りを勧められたものでした。

 赤紫の絞りで梅の花が描いてある可愛い羽織。柄もあって、駄目にしてしまうには惜しい。

 そこで提案されたのが、名古屋帯への仕立て直しでした。

 まぁ、その時は紬の方を優先して、羽織は洗い張りでストップしたんですけどねー。

 その赤紫の絞りの反物が、ずっと気になっていたわけなんです。



 時を経て、私はやっぱりその絞りの反物を使いたくなったのでした。

 着付けの先生に聞いてみれば「良いことだわ! そうやって、使えるように作り替えることができるのも着物の魅力」と後押しされて、仕立て直すことに。

 あ、ちなみに先生がいる呉服屋さんは、ネットで調べた想定内のお値段でした。だいたい羽織から名古屋帯にするのは、洗い張り込みで四万円くらいでできます(私は洗い張りが終わってたので安かった)。

 ネットで調べたら、もっと安いところも。絵羽羽織を名古屋帯に仕立て直すとか、本当に素敵ですよ!

 ちなみに赤紫の絞りの羽織は、柄もばっちり前にも、後ろのお太鼓部分にも出るように仕立ててくださって、大満足でした。ものすっごーく可愛い!

 ここで思い出したのが、

「染めの着物に織りの帯、織りの着物に染めの帯」

 という言葉。

 式服での留め袖や振り袖、訪問着は、染めの着物。であるなら、豪華な錦糸等が織り込まれた織りの帯をあわせると良い。

 逆に普段着である織りの着物。紬等は染めの帯が塩梅が良い。

 というような意味なのですが。豪華な染めの着物を帯に仕立て直したのなら、ちょうど良い具合だったろうな、と。

 着物として使えなくなったら、羽織に。羽織で駄目なら帯に。

 こうやって布を使い回していける、そんな服。めちゃくちゃエコですよね。



 ちなみに振り袖を訪問着にしたり、若い頃の着物を渋い色に染め直して使ってみたり。違う着物を組み合わせた『片身替わり』なんて仕立て方もあるんですよー。

 私は貰い物がとにかく多いので。貰ったはいいけど、この羽織ちょっと短いな、とか。派手すぎて使いづらかったとか。あるわけです。

 もう一着、伯母から貰ったオレンジと黒のまだら模様の羽織も、名古屋帯に仕立て直してもらいました。これも綺麗に作ってくれて、本当に嬉しかった。

 お姑さんのものは特に、捨てることはできなくて。こうやって活用していけるって、そういう知恵があるって、素晴らしいことだなって思います。

 引き継いだものは、愛して長く使いたい。それを可能にしてくれる着物という文化に感謝です。

 そんな着物の仕立て直しの紹介でした。









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