幸運な木綿着物との出会い
さてはて、着物を着るぞ! と一念発起した私に、冷ややか~な視線を送ってくれたのは母でした。
「またアンタはそうやって散財して。懲りたんじゃなかったの」
厳しーいお言葉。
「着れるようになるってば」
「いつまでたっても子供ね、アンタは。…………あ、でもあったわ、着物、我が家に」
「ええっ!?」
衝撃の一言でした。いや、ないって言ってたじゃない、母さーん。
着物なんて優雅な装い、したくもないってバッサリだったじゃない!
「一回も袖通したことないけど、木綿の生地の」
「え、何で持ってるの? 着てないのに?」
すると母、さらに衝撃の一言。
「だって、和裁やってる友達に、縫い方教えてあげるから作ってみたらって誘われちゃったんだもの」
「ええぇっ!?」
「だから素人の手縫いのやつ。生地も和裁をやってた姉さんがタダでくれた反物だったし」
まさかの手作りかーい。
「縫っておいて、何で着ないの………」
「作ったら満足しちゃったの」
なんて母らしい。
驚いていたら、いそいそとその着物をタンスから出してきた。
黒地に赤と白と黄色が扇形に織り込んである柄の木綿着物。
「可愛いじゃない! もったいない!!」
「だったら、アンタにあげる。私は着ないし」
「ありがとう!! めちゃくちゃ嬉しい!! 絶対着るー!!」
あんまりにも私が喜ぶので気分が良くなったのか、母は「そういえば、お琴の先生やってるひとを知ってるんだけど、着付け教えてもらえないか聞いとくわ」と言ってくれる。
「琴かぁ。私は弾く方は興味ないんだよなぁ。聴くのは好きだけど」
「着物の着付けだけ教えてもらえばいいじゃない」
迷ったけど、この際だからと、紹介してもらうことに。
そうして持ち帰った木綿着物が、やはりというか、ジャストフィット。
母と私は身長があまり変わらず、体型、さらに顔にいたるまでそっくりなので、当たり前。
そうそう、幸運なことに、お姑さんとも身長差があまりなかったのですよねー。ほとんどの着物が、おはしょりまでバッチリできる丈でした。
さらにさらに、その木綿着物に、綿麻の長襦袢と、オレンジ色の半幅帯(それも桜の枝の刺繍が入っている可愛いの!)が、ものすごーくあっていたんです!
帯は簡単な貝ノ口という結び方にしてみたんですが、もう嬉しすぎてすぐに母に見せました。
いや、こー、おはしょりやら、帯やら、けっこーぐちゃぐちゃだったんですけど。
和装がコーディネートできた! しかも可愛い!! と、おおはしゃぎでした。
さらに言えば、季節が五月だったこともあって、ちょうどいい涼しさだったんです。
正絹とはまったく違う着心地の木綿着物。半幅帯の軽さも、普段着とはこーゆーもんよ! といわんばかりのもの。
こ れ だ !!
確信しました。
私がしたかった和装は、こういう着物なんだ、と。
もっと気軽に。普段着に。和装したっていいじゃない。
こうして私は自分の好む着物と出会ったわけで。
まったく、幸運な木綿着物との出会いでした。
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