泥水の飛沫

雨石穿

俺という人物の独白

―――「自分」なんて本当に存在するのだろうか?


他人が観測してから成る「自分」ではなく、観測されてない状態で見せる...俗に言うプライベートの「自分」でもない。


本質的な「自分」だ。


こんなクソの役にも立たない問いに対して、真剣に、延々と考えてること自体が無駄なのは承知の上だ。

俺は望んで無駄な事をしている。例え誰かが観測してたとしても、否定も肯定も求めない。


話を戻そう。


俺は本質的な「自分」は何処にも居らず、虚無であると考えてる。

まぁ、ニヒリズムだ。正確に言えば、俺はニヒリスト擬きだ。

ただ、何もない「自分」に観測対象などに対して感情的だったり、利己的になるように仮面を被って取り繕っているだけとしか見えない。

正直言って気持ちが悪い。

自分以外の有象無象に害虫を見る時と同等の嫌悪感しか湧かない。

今の俺ならな。

確実にこんな突き詰めた思考を持っている人間は道徳的にもまずいし、世の中から省かれるだろう。


―――それならどうするか。


擬態しかないだろう。中学三年間、欺瞞で満ちた自分でも辟易する発言を繰り返し、話易い寄生先に合わせていた。

殺す感触が元からない「自分」という死体に何度も刃を突き立て、有象無象の流れに乗り、自分は代償として「ストレス」という汚物を返り血のように死体から浴びせられ、見せかけの自分を擦り減らしていく。

この繰り返しで毎日常時「対自分」の殺人鬼生活を満喫している。


―――まぁ、当然のことながら結果は目に見えていた。


やり過ごしで生きていける程、俺個人のポテンシャルは高い訳でも無く、文武両道を掲げていた中学の方針を貫けず、見事に志望していた県立高校に落ちた。

しかも、志望校は見栄を張ってそこそこ高い偏差値の高校を希望し、中三の夏からでは到底至らなかった学力を中三の冬に手に入れたものの、受験本番では惜しくもあと数点のところで落ちてしまい、今は志望校よりも、格段に偏差値が低い滑り止めの私立高校に通っている。


馬鹿だなって笑って欲しい。ただ、感情は殺してくれ。否定も肯定も自己投影も許さない。


この件で父親と義理の母親は俺に失望し、父は毎朝と毎晩俺に罵声を浴びせ続け、俺の腹違いかつ同い年の義理の兄と執拗に比較し、母方の遺伝子の差などと鼻を高くして語ってくる。義母とは一切会話がなくなり、家ですれ違う度、父と同じように兄と比較した小言を小声で言ってくる。


ただ、義理の母は、今まで全く俺の本当のかあさんについては言及してこなかった。


腹違いの兄は自分と同年齢だが、容姿や運動神経、学力ともに申し分なく、ましてや性格も良い方だ。受験に失敗した俺にも積極的に干渉してきて、笑顔で励ましてくれる。

だが、常に深淵を覗くようなドス黒く見透かした目で俺や家族、ましてや他人も見る為、その笑顔でさえも「家族」という舞台で役を演じてるだけに過ぎないと俺は捉えている。

しかも、義兄は俺と高校こそ一緒のものの、偏差値が数段高い別学部に通っている為、差が歴然となり、両親が比較したくなるのも当然の事なのだろうか。


されど、無駄だ。こんな窮地に追い込まれたところで、こちらとしては、傷つけられる矜持さえも持っていないのだから。


・・・勝手な被害妄想かもしれないな。


そもそも、最近一層過激化したとはいえどもから俺に対しての言葉や待遇での虐待があるが、俺に何を求めてやっているのだろうか。


結局、提言した通りの無駄な時間だった。

堕落した為...派生して色々、どうでもよくなってしまっているので、矜持は傷つかないが学校からも家庭からも追い込まれたこの窮地を打開する術は状況整理だけでは発見出来なかった。


出会いを探そう。逃げや自殺は今は放棄するか。


・・・度胸も無い癖に、この俺はよく自殺なんていう単語を出してしまう。


俺の独り言はここでおしまい。

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