第13話 チュートリアル(裏ルート)はお好きですか?
「うひゃー、これは深いっすねー」
そこには漆黒が、闇が、滞在していただけだった。
石ころを投げ捨てると幾分かして音は帰ってくる。
底無しでは無いだろうが、落ちたら生きては帰って来れないだろう。
「もぅ! もぅ!」
「なんだ」
「無理も無茶もしないって約束はどうしたのよ!」
女神官の魔法は幼馴染を優しく包み込んだ。
傷が見る見るうちに修復していく。
涙目でポカポカ叩く刑がささやかな罰の証である。
「したつもりは無いが」
「してるじゃない! こんなに傷付いて!」
「作戦通りだ」
「聞いてないわよ!」
「損傷の有無については問われていない」
「ばかー!」
泣きじゃくる彼女の姿を最後に見たのはいつだったろうか。
己をあの業火から助け出してくれた頃だろうか。
まだ少し痛む左腕を抑えながら、悪いことをした、と心の奥底で思う。
「立てるか?」
職業に似合わず、左手には未だに棍棒が握られている。
身体からは湯気が上がっていた。
彼も彼なりに、惨状打破の為に戦ったのだろう。
「あぁ」
「無事で良かった」
「お互いにな」
女神官に支えられ、魔法使いの手を取り、男は立ち上がった。
講堂の殆どは崩れ落ち、残った足場も危うい。
斥候を先頭に、歩いて渡れる場所を一党はゆっくりと進む。
「ごめんなさい……私が、もっと気をしっかり持っていれば……」
作戦では彼女が地下に落とし穴を作り、完成するまで前衛職二人が時間稼ぎ。外から駆けつけてくるゴブリンは残りの者たちで対処する。落とし穴が完成したら、そこに
古典的であり、おおよそ
それでも、成功すれば効果は見込めた。
他に妙案が無い以上、決行するしかない。
「そうだな」
ばっさりと、吐き捨てるように幼馴染は言った。
そして「しかし、そんなこともある」とも。
不器用で頑固で強情、その上捻くれているのは昔から。
仕方ないなぁ、と女神官はくつくつと笑った。
「お、扉が見えたっす」
斥候が指を差した先、赤く染色された扉が佇んでいた。
鍵は掛かっていない。
ぎぃーと音を立て、久方ぶりに開かれた扉からは暖かな風が吹いた。
時の流れを感じさせない天井の装飾はいつの時代に創られた物か。
小部屋の天井からは太陽の光がさんさんと降り注いでいる。
「この先を行けば、外に出られそうだな」
「そうっすね」
「今言うのもなんだが、なぜ小鬼共はこの扉からは出入りしなかったんだろうな」
「たぶん、あの
ゲーム上では特定の魔物を倒すと開く隠し扉が存在する。
今回の場合は特定の魔物が巨人だったのだろう。
「もし、巨人を無視してこの扉を開けようとしていたら」
「引いても押しても開かず、敵の群れに囲まれてゲームオーバーだったかもしれないっすね」
ぶるっと肩が震える魔法使いを横目に、斥候は周辺の探索を始めた。
蔦や苔が生い茂った壁画。
眺めるに、神々の戦いの様子が彫られているようだった。
大地は唸り、海は荒れ、地中からは不気味な造形した者たちが這い出ている。
この世界における伝説又は伝承の類か。
神話の雰囲気を纏っている。
「あれっ、これ……」
苔の一群に引っかかった枯れ葉や松葉によって景色の一部と化した小さな箱。
肌を突き刺す枝をくぐり抜け、近付いてみる。
古めかしい装飾は時の風化の前に敗れ、刻まれた文字さえ見えない。
ベタベタする樹液の雫がポツポツと落ちている。
女神官はふぅー、と息を吹きかけ、軽く埃を払ってやった。
宝箱である。
小さく見えていた箱は思いの外奥行きがあり、中に入っている
自分はあまりゲームをしないが、幼馴染がやっているのを何度か見た事がある。
強敵を倒せば、褒美として希少素材や強い武器がザックザク。
テレビに夢中になって
「みんなー! 宝箱見つけたよー!」
ここまで頑張ったのだ。
その褒美があっても良い。
見た所鍵は掛かっていない。
自分だけで開けられそうだ。
「っ! 待つっ――」
「ぇ?」
設置式魔術の発動。
宝箱の開閉がスイッチになった。
彼女はふと思い出す。
アイテムのある場所に敵や罠を潜めるのは死にゲーの常識。
いつだったか、斥候が教えてくれた事だった。
一党を閃光が襲い、視界は真っ白に染まった。
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