第2話 異世界に俺SUGEEされました
「そうだ。せっかくだから食事でもどうだい」
エレベーターに乗って地上へと出たところで、ラスガルさんに提案を受ける。と同時に思い出したように空腹感が襲ってきた。そしてさらに地上の風景に唖然とする。
どこの都会だとでもいうような、高層ビルを彷彿とさせる建物がそこかしこに聳え立っている。通りを歩く人の数もけた違いだ。大阪や東京の地下街を歩いてるくらいに人が密集している。
「なんか飛んでる……」
極めつけは空飛ぶ乗り物だろう。数は多くないが、車のような、翼のない飛行機とでも言えばいいだろうか――が空を行きかっている。
「あれは魔導ギアと言って、まぁ見てわかるように空を飛ぶ乗り物だよ。魔力を原動力に動いてるんだけど、最新型だと一日補給なしで飛び続けられるんだよ」
おぅふ。魔力ですか。やっぱり魔法があるんだろうなぁ。いやでもこの世界の発展具合はなんなのさ。
「へぇー、すごいですね……」
圧倒されすぎてすごい以外の言葉が出ない。道行く人の服装も、現代日本をうろついてもそこまで違和感のない恰好をしている。
「団長へは連絡を入れておきました」
「あぁ、ありがとう」
ええっと、何かやったようには見えないが、遠方と連絡を取る方法でもあるんだろうか。聞いてみると、直径二センチで長さ十五センチくらいの細長い端末を見せてくれた。スマホみたいなもんだろうか。
「こっちにも準備が必要だからね。まぁ待ち時間もあることだし、ちょっとご飯でも食べに行こうか。あぁ、もちろん費用とかは気にしなくていい。転移してきた異邦人を保護するのが僕たちの仕事だから」
「ありがとうございます」
なんともお優しいことだ。殺伐とした異世界事情を叩きつけられなくてホントよかった。今になって浮かれた気分が現実へと引き戻される。
「あ、じゃあわたしデルミラルに行きたいです!」
「ええー?」
急にテンションの上がるプリシーラさんに、ラスガルさんが嫌そうに応じている。
「プリシーラの希望は聞いてないよ。……何か食べたいものはあるかい?」
さらっとスルーすると、俺に希望を聞いてくれる。といっても普通に腹が減ってるし、ここで何が食えるのかもわからない。
「あ、えーと、晩ご飯食べ損ねてるので、なんでもいいのでがっつり食べたいです」
「じゃあデルミラルでも大丈夫ですよね!?」
やたらと推してくるプリシーラにラスガルさんもたじたじだ。聞くところによるとスイーツがメインではあるが、飯も食えるカフェとのことだ。だったら俺も文句はない。というか言えるはずもない。
というわけで食事はプリシーラ推しのデルミラルというお店に決まった。
「うまー!」
写真がふんだんに使われたメニューに驚きつつも、注文した料理に舌鼓を打つ。とにかく肉が美味い。ステーキソースも三種類あり、どれも複雑な味で旨味が感じられる。
ラスガルはコーヒーのような、すごく芳醇な香りのする飲み物を飲んでおり、プリシーラは巨大なパフェと格闘している。いろいろな種類のフルーツとアイスと、これも日本で出てくるパフェ顔負けだ。
「喜んでくれて何よりだよ」
「あぁ、超幸せ……」
「プリシーラのは経費で落ちないから自腹でよろしく」
「ええっ!?」
俺に優しい言葉をかけてくれたラスガルが、とろける表情でパフェをつつくプリシーラを地獄に叩き込む。一瞬で変化する表情が面白い。
お店のメニューを見て思ったけど、料理のレパートリーも豊富だ。ここに来る途中にもいろんなお店があったけど、娯楽施設みたいなのも多かった。もうなんでもありだよな……、この異世界って。
いや待て、諦めるのはまだ早いんじゃないか? リバーシーやマヨネーズで大金を稼ぐことはできそうにないが、まだ何かあるはずだ。……そう、きっと俺には異世界転移の特典みたいに特殊なチートスキルが!
「ごちそうさまでした」
淡い期待を抱きつつも肉を完食する。謎肉ステーキは美味かったです。
「じゃあそろそろ準備もできたみたいだし、行こうか」
えーっと、俺の受け入れ態勢ってところかな。宿無しで放り出されても困るのでありがたい限りだ。なんという至れり尽くせりな異世界なんだろうか。
「あ、はい。お手数おかけします」
プリシーラが端末の操作を終えるのを待ってからお店を出ると、ラスガルがこの世界の話をまた教えてくれた。
「異邦人にとって一番気になることといえば……、もちろんこの世界に魔法というものは存在するよ」
言葉と共に隣にいたプリシーラが、人差し指の先に小さい炎を灯す。強力なものになれば地形を変えるほどの威力まで出るそうだが、プリシーラはそこまでの魔法を扱えるらしい。
「異世界マジぱねぇ……」
ひとしきり驚いていると、駅のロータリーのような場所へと到着する。
「ちょっと目的地までは遠いからね。魔導ギアに乗っていこう」
そこにはロータリーの傍にたたずむ、翼のない飛行機と言った見た目の機体が鎮座していた。近くで見ると、今にも変形合体しそうな雰囲気も感じられる。
いやマジでコレに乗れるの!?
否が応でも上がってくるテンションを押さえつけることはできなかった。
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