異世界、ついて行ってイイですか?
横浜あおば
第1話 インタビュー、させて貰ってイイですか?
深夜一時、吉祥寺駅前。
「すみません、東京セブンチャンネルなんですけど、お話伺ってもよろしいですか?」
「あの、急いでるんで……」
「東京セブンチャンネルなんですけど、インタビュー大丈夫ですか?」
「これ何の番組?」
「タクシー代をお支払いするので、その代わり……」
「あー、それ知ってる! でもウチはムリだわ」
声を掛ける人全員に悉く断られ、ディレクターの
「やっぱそう簡単にはいかないよなぁ。そろそろ撮れ高が欲しい……」
そんな柳瀬Dを、新人アシスタントディレクターの
「まあまあ、そう落ち込まずに。柳瀬さんなら大丈夫ですよ!」
「何を根拠に……?」
「根拠なんてありません!」
満面の笑みで言い切るAD白崎。
元気だけが取り柄の新人ADに呆れつつ、柳瀬Dは再び通行人に目を向ける。
「あの人、声掛けてみるか」
「今駅から出てきた人? 綺麗な人ですね」
二人は近づいて、その人に話しかける。
「すみません、東京セブンチャンネルなんですが、今お時間よろしいですか?」
「はい、大丈夫ですけど……?」
柳瀬Dの言葉に、きょとんとして首を傾げる女性。
肩まで伸びたさらさらの髪に、透明感のある白い肌、背が高くスタイルも抜群。もしかしてモデルでもやっているのだろうか?
「こんな時間まで何をされていたんですか?」
「あの、えっと、散歩です……」
「散歩? こんな夜中にですか?」
「あっ、はい……」
なんか変な人だな。
柳瀬DとAD白崎は顔を見合わせる。
「ちなみにお仕事は?」
「魔導師、じゃなくて、えっと……」
魔導師って。ちょっと危ない人なのでは?
AD白崎は「どうします?」的な視線を送る。
だが、一刻も早く取れ高の欲しい柳瀬Dとしては、折角インタビューを受けてくれた人をこちらから離したくはない。
それに、意外とこういう人の方が面白いVTRが撮れることもある。
柳瀬Dは思い切ってあの質問をする。
「番組でタクシー代をお支払いするので、『家、ついて行ってイイですか?』」
するとその女性は、しばらく目をパチクリさせた後、「へっ!?」と声を上げた。どうやらこの番組を知らないらしく、かなり動揺している。
「あの、私、タクシー使わない……」
遠回しに断ろうとする女性。
だが、柳瀬Dは押し切れると判断し、言い訳を潰していく。
「そしたらコンビニで好きな物を買って頂いて」
「部屋、掃除してないかも」
「それは外で待ちます」
「えっと、いや、その……」
断る理由が無くなった女性は、黙って下を向いた。
その様子を見て、AD白崎が優しく言う。
「テレビが駄目とかじゃなければ、こっちは全然大丈夫ですよ」
その時、女性が意を決したように顔を上げた。
「いや、そういうことじゃなくって。私、異世界から来たんです!」
しばしの沈黙。
「は?」「え?」
柳瀬DとAD白崎が同時に訊き返す。
異世界から来た。女性は今、確かにそう言った。
冗談にしては突拍子も無さすぎる。かといって信じがたい。
果たしてそんなこと有り得るのだろうか?
「すみません、ちなみにお名前は……?」
柳瀬Dが問いかけると、女性は背筋を伸ばして丁寧に挨拶をした。
「私はテレート王国の魔導師、クラリス・サルティーヌと申します。まさかこんな形で正体を明かすことになるなんて、思いもしませんでした……」
その仕草は、嘘や演技には見えなかった。もしこれが演技だったなら来期の深夜ドラマで主演をした方がいいレベルだ。
「クラリスさん。差し支えなければ、魔法を見せて頂けませんか?」
AD白崎はすっかり異世界人であることを受け入れた様子で、目を輝かせてお願いする。
「確かに、証明するにはそれが一番ですよね……。分かりました。簡単な魔法をお見せします」
するとクラリスは、目を閉じて神経を集中させ始めた。
指先に魔力を込め、魔法を詠唱する。
「神聖魔法第一術式、火炎魔法」
直後、クラリスの人差し指に小さな炎が出現した。
メラメラと燃える炎からは、微かに暖かさを感じる。
炎が消えると、クラリスは少し恥ずかしそうにはにかんだ。
「すごい……! 柳瀬さん、これは撮れ高も期待出来ますよ!」
子供のようにはしゃぐAD白崎。
柳瀬Dはこくりと頷き、改めてクラリスに言う。
「クラリスさん。我々も異世界、ついて行ってイイですか?」
その質問に、クラリスは少考してからゆっくりと首を縦に振った。
「……あなたたちを異世界に連れて行くことは不可能ではありませんし、分かりました。一緒に行きましょう」
「ありがとうございます!」
AD白崎はクラリスの手を握り、嬉々とした表情を浮かべる。
「では、異世界に参りましょうか」
「あの、クラリスさん。ちょっと待って下さい」
異世界に向かおうとするクラリスを、柳瀬Dが慌てて制止する。
「まず先にコンビニでお好きな物を買って頂いて」
「ああ、そんなことも言っていましたね」
クラリスは忘れていたようで、ぽんと手を打った。
「じゃあそこのコンビニに寄りましょうか」
柳瀬Dが通り沿いのコンビニを指差す。
クラリスが扉を開け店内に入る。柳瀬DとAD白崎は店の入り口で買い物が済むのを待った。
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