無題

たまにゃん

無題

「こんな世界、もうイヤだ!!」


 そう強く願った瞬間、時が止まった―――。


 車が行き交う道路、風船を追いかけ走り出そうとする子供、今飛び立ったばかりの鳩、水道の蛇口から流れ出る水までもが。

 全てが止まった。

 そう、只一人、僕だけを残して。


 息遣いが何も感じられない重たい空気の中、僕は走った。

 君を探して。

 ストップモーションの人々の中を抜けてゆく。

 『無』の中に自分の呼吸音だけが響く。

 君がいた。あいつに笑顔を向けたまま。

 昨日まではその笑顔は僕のものだったのに。

 悔しくて二人の間に入ってみても、君の瞳は僕を通り越してあいつを映す。

 もう僕を映す事のない君の瞳・・・。

 僕の頬を一筋の涙が伝って流れ落ちた。


「くすくすくす・・・。」

 笑い声が聞こえて僕は振り向く。

 そこには宙に浮く一人の少女。

「あなたがイヤだって言うから、時の間に引っ掛かっちゃったのよ。もう彼女達の時間には戻れないわ。」

 笑いながら少女は言う。

「違う! 僕はこんな事、望んでいない!」

 僕は少女を追いかける。

 ふわふわと宙を泳ぐ少女。パッと消えては違う場所に現れる少女。

 付かず離れず、少女は楽しそうに笑いながら逃げる。

 僕は少女を追いかけ続ける。


 わかってる。

 きっと戻れない。

 永遠に続く追いかけっこ。

 これはまるで、長い、長い、長い、―――悪夢。

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無題 たまにゃん @tamanyan_sp

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