父に成りました
Rn-Dr
第1話 告白しました
高校生最後の夏休み。
陽が沈み、辺りを夜の帳が責め立て始めた頃、この辺りでは一番の大きさを誇る総合公園で一人佇む男がいた。
彼の名は
そんな彼がこんな時間に外灯の下で佇んでいるのには訳がある。
「──ごめん。待たせちゃったかな?」
剛志に声を掛けたのは同じ学校でマドンナなどと呼ばれている女性。
名を
二人は小学生から同じ学校に通い、高校まで一緒という間柄ではあるが、幼馴染かと言うとそうでもない。
小学校から一緒だったおかげで存在は知っていたし、剛志に限っては思春期を迎えると同時に憧れすら持っていた。だが、ずっと人気だった琴弓にはいつも誰かが傍にいて話しかけられるわけもなかった。
それが高校一年のころ、入学式でたまたま同じクラスになった。でもそれだけじゃなかった。入学したばかりで緊張や不安、期待などいろいろなものが後押ししてくれたのか、琴弓の方から話しかけてくれたのだった。
それから二年間半、彼女と過ごした学校生活はいつしか剛志の宝物になっていた。
ではなぜこんな暗い公園に呼びつけたのか。それは伝える為だ。
好きだと。俺と付き合ってほしい、と。
憧れから恋に変わるのにはそんなに時間はいらなかった。それでも今まで言えなかったのはただ単に臆病だったから。せっかく話す様になったのに、自分の想いをぶつけ気まずくなるのが怖かった。
じゃあなんで今になって想いを伝える気になったのか。
簡単だ。
今までは偶然一緒の道を歩んだだけ。これから社会に出るにしても大学に進学するにしても、今までの様に同じではいられないだろう。それならば今のうちに二人で居られる理由が欲しかった。
「呼び出したの俺だしさ、気にしないでよ」
琴弓の目を見るのが気恥しい。一ヶ月に一回くらいは一緒に出掛けたりもしたし、たまには気分転換のために二人でこうやって話すこともあったから琴弓は気付いていないのかもしれないが。
「急だったから驚いちゃったよ。まぁ私も暇だったんだけどね」
受験シーズンに暇だというのもいかがなものか? 剛志も人の事は言えないのだが。
「それならよかった。ちょっとそこの椅子にでも座って話さない?」
外灯の反対側にあるベンチを指さし、琴弓とベンチへと向かう。ほんのちょっとの距離ではあるが剛志にとって初めての告白。覚悟を決めたつもりではあったが、琴弓を視界に移した瞬間にその覚悟は粉々に砕けていた。それを立て直すためのただの時間稼ぎである。
ベンチに座ってからもしばらくは沈黙が続いてしまい、しびれを切らせた琴弓が剛志の顔を覗き込む様に尋ねる。
「ねぇ、今日はどうしちゃったの? なんか変だよ?」
このままでは相手にも失礼だと何度も頭の中で唱え、意を決した。
「呼び出しておいたのに黙っててごめん。実は琴弓に言いたいことがあるんだ」
「言いたい事?」
首を傾け、ジッとこちらを見てくるあたり、彼女はこれからの出来事などまるで想像していないのかもしれない。それでも伝えると決めたのだから男らしくいこうじゃないかと剛志は心に決めた。
「ずっと、ずっと琴弓の事が好きなんだ。琴弓さえよければ俺と付き合ってほしい」
言葉に今までの想い、これからの想いを全部乗せたつもりだ。それでも驚いたように目を見開いた琴弓を見ると心臓が跳ねあがり、息苦しくなっていく。何かしらの返事は来るはずだが、この無言の時間が辛い。
「・・・ねぇ、本当に私なんかでいいの? 剛志だったら私よりかわいい子絶対捕まえられるよ?」
少しイラっとしてしまった剛志だが、改めて思い出すと不思議だと思った。
小学生から一緒だったからいろんな噂話なども耳にする機会があったが、琴弓の浮ついた話など一度も耳にしたことが無かった。更に言うなれば彼女は一度も彼氏を作ったことが無いらしい。剛志も偶然告白現場に居合わせてしまったこともあったが、丁重に断る姿を見て何度安堵の溜息を吐いたか数えられない。
心のどこかで「何か事情でもあったのかな?」とも思いはしたが、今は消化不良の様なジリジリと迫ってくる苛立ちに任せる事にした。
「俺は琴弓が好きなんだ!君の代わりなんて考えられるわけないだろ! 俺は君と生きたい、君と一緒に笑いたいんだ!」
捲し立てるように、想いをぶつけるように言葉をぶつけてしまい、少しだけ後悔の念が産まれたが、もしこれでだめならば潔く諦めようと気持ちを切り替えておいた。
剛志の言葉を聞いた琴弓は再び目を見開いた後、何度も何度も迷ったような素振りを繰り返し、しばらく沈黙が続いた。
その沈黙の後、何かを決心したように垂れている目を精一杯吊り上げ──
「そこまで言ってくれるなら・・・お願いします」
こうして俺に初めての彼女が出来た。
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先が気になるやろ! なんて方がいたらぜひ評価などをよろしくお願いします(*- -)(*_ _)ペコリ
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