第22話 聖女様とクレーンゲーム
そして、ショッピングモールのゲームセンターに来た。ショッピングモールに入る前とは大違いで、すごいうるさい。
ゲームの機械の音とか、それで遊んでいる人が喜んでいる声。それが一斉に集まるもんだから、隣にいる東雲さんの声でさえ集中しないと聞き取れないくらい。いや、集中しても聞こえないかも。
「なにか騒がしいですね。」
「……ん?あぁ、うん、そうだね。僕もこれほどまでとは思わなかったよ。」
やばい……全然聞こえん……
「そうだ、あのクレーンゲームをしませんか?」
「ん?なんて?」
「あのクレーンゲームをしませんか?」
「………ん?もう一度お願い!」
全く聞こえないんだけど。どうすれば東雲さんの声がきちんと聞こえるかなー……。
そうだ!
いい案を思いついた。
僕は、東雲さんと離れていた少しの距離を縮めた。先程までは人がひとり通れる程度の距離があったので、それさえ縮めれば聞こえるんじゃないかと思ったんだ。
だけど、正直やりすぎた気もする。肩がもう当たってしまっているから。でも、聞くことに集中していた僕は気付くことなんてなかった。
「……ほぇ!?」
「もう一回だけ言ってくれないかな?」
「……ひ、ひゃい!え、えー……な、なんて言ってましたっけ?そ…そそそそうです!あのクレーンゲームをしませ…んか?」
「あー、あの?」
そう言って、僕はなにかぬいぐるみか人形かは離れていたよくわからないけど、なにかが入っているクレーンゲームを指差す。
「そ…そうです……!それで、この状況いつまで続きます……?」
「ん?……………………ぁ。ご…ごごごごめん!!近すぎたよね?」
そう言うと、僕は人がひとり通れるくらいの距離に戻す。いや、戻そうとしたという方が正しい。
「ち……近すぎないです……! このままで…いいです……! そ、そうじゃないと声が聞こえないじゃないですか。」
そう言って、東雲さんは東雲さんの手で僕の腕を掴んで僕を近付ける。でも、力を入れすぎてしまったからかもう肩どころかいろんなところが当たってしまっている。いろんなはいろんなだ。想像はご自由に。ただ、幸せだったと言っておこう。
「あ…ご…ごめんなさい!」
自分のしていたことに気づいたからか、顔を赤くして僕の腕から手を離す。
「い…いいよ!そ、そうだ!あのクレーンゲームのところに行こ?」
「そ、そうですね!」
そして、東雲さんが言うクレーンゲームのところまで来た。このクレーンゲームには動物のぬいぐるみが入っていた。
キリンとか犬とかうさぎとか……。それぞれが可愛らしくできている。アニメ化したみたいな?東雲さん化したみたいな?
ゴホンゴホン。なんでもございません。
ふと気になって、隣の方を見てみるとクレーンゲームの中を見て目を輝かせている東雲さんの姿があった。そして、どれが欲しいんだろうと目の向かう先を見てみると、うさぎがそこにはあった。
うさぎが欲しいんだな。どうしようか。
「あのー……まず、私からクレーンゲームをやらせてもらってもいいでしょうか?」
「あっ、うん。いいよ。あっ、クレーンゲームの方法とか知っている?」
「あっ、それがよく分からなくて。教えていただけると助かります。教えてくれませんか?」
「分かったよ。まず、ここに百円玉を入れて、このボタンを動かすんだ。ボタンの上に、1、2って書いてあるからその順番にね?」
「あっ、分かりました。」
チャリン
ウィーーーン
「わぁ、動きましたよ、律くん!動いてます!」
「う…うん……!!」
kawaii……
めちゃくちゃkawaii……
「あっ、失敗しちゃいました……。」
「うーん…じゃあ、僕が手伝ってあげよっか?」
「そうですね!お願いします!律先生!」
だから、それは無しだろ……
先生とか……先生とか……
ずるいよー……
「う、うん。」
どうしてこうにも東雲さんは可愛いのだろうか?優しいのだろうか?って、そんなこと思っちゃいけないよな。
東雲さんには東雲さんの幸せっていうものがあるんだから。僕が邪魔しちゃいけないよね……。
やっぱり、東雲さんは僕なんかに構ってくれて優しいな。
僕は、そう思いながらも心の奥では密かに東雲さんが僕のことを好きだったらいいな、そう思っていた。
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