第15話 聖女様は風邪

 ごめんなさい正直ふざけました調子乗りました土下座してお詫びいたします()

 

 ◇◇◇◇◇


 この出来事があったのは、4時間目のお昼休みの始まる前のこと、授業最初のころだった。


 僕は、そのとき普通に先生の話を聞きながら、黒板にかかれている文字をノートにとっていた。


 その出来事は、あまりにも予想外のことで、このあとに先生がいったことは本当に驚いた。


 それは……



  少し前に遡る。



「はいはーい。ここ、ここ、テストでるよー。ちゃんとノートに写しといてよー。写さなかった人のことは知らないからねー」


「えーっと、……ここだっけ?」


 カッカッカッカッカッカッカッ


 シャーペンの音が教室に鳴り響いている。今聞いている分には心地いいのだが、テストで聞こえると焦るあの音が。


 そんなときのことだった。


 カッカッカッカッカッカッ……ガタンッ……


 シャーペンの音とは別に、また違う音が聞こえてきた。


 なんだろう? 椅子が倒れた音だったよね。ってことは、イスを浮かせたりして、誰かふざけてころんだんだろうな。


 誰なんだって……えっ!? 聖女様!?



「……東雲さんはふざけるような人でもないし、どうしたんだろう?」


 生徒のみんなは大丈夫かな、と心配そうな目を東雲さんに向けている。


 先生は東雲さんの方へ近付いて東雲さんの様子を確認する。あんまり慌てていないことから、めまいを起こして倒れてしまったとか、そんな軽い症状のようだ。


「大丈夫? ……風邪かしらね。早退させましょう。だれか、保健室につれていってくれる? 東雲さんの一番仲いい友達とか」


 誰だろう? とか、自分って仲いいんじゃね? なんて、他の人がおもう暇も与えず、蓮は手をあげて答えた。


「はい、早川君がいいと思います。一緒に帰ったこともあるみたいで」


「そうなの? じゃあ、つれていってあげてください」


「は……はぁ。わかりまし、た……」


 東雲さんは女子というのに、男子に任せていいのかよ、なんてツッコミを入れながら仕方なく了承する。


 仕方なく、な?


 そして、僕に東雲さんの手を僕の肩にまわして、ゆっくりと保健室へ向かった。


 東雲さんの身体がもたれかかるような形になっているので、正直恥ずかしいが、東雲さんが苦しそうにしている今、そうは言っていられない。


 ちゃんと、頑張らないと。


「よしっと」


 そして、僕は足に力をいれて踏ん張り、保健室に向かって歩きだした。


 あれ? 意外に軽い……。僕はあんまり力がないはずなんだけど、東雲さんを運ぶことができているじゃん……っ!


 ガラガラ


「失礼しまー……って、先生はいないのか。まぁいいや。とりあえずベッドの方で寝かしておくか」


 そして、ここからが問題。


「このあと、どうすればいいんだろう? 風邪の対処法とか保健室の先生なら知っているんだろうけど、今はいないしなぁ」


 うーん……自分だと、風邪になったらずっと寝て過ごしていたからなぁ。どう看病をしてあげればいいのかわからない。本当は寝かすだけじゃいけないだろうし……。


 こうなったら……


 僕は、周りをみて先生がいないことを確認する。そして、禁忌を使う……! その名も……


 『学校では禁止されている現代の叡智、スマートフォン!!!』


「やっぱり苦しいのは見ていられないし。東雲さんのためだから、いいよね」


 そして、検索。風邪を引いてしまったら……でいいかな。ポチッと。


「よしっ、出てきた。これを実践しておけば東雲さんは楽になるだろう」


 一番上に出てきたサイトをポチッと押すと、記事に目を向ける。


『カギとなるのは体温の上手なコントロール!


 風邪の引き始めで寒気がするときは、素早く熱を上げてしまいましょう。室温を高くして布団に潜り込み、体を温めるのがおすすめです。

 逆に、熱が上がりすぎてダルいときは、おでこ、首のまわりやわきの下、太ももの付け根などを冷やすと効果的です』


 また、ときには窓を開けて部屋の空気を換気したり、加湿器を使って部屋の湿度を上げたりするのも良しですね』


 ふむ、なるほど。……よしっ、全部するか。


「まぁ、簡単なものからやっていくか。窓開けて、加湿器の電源をつけて……っと」


 うん、完璧。


「それで、次は布団をかぶせて……っと。で、おでこ、首のまわりやわきの下、太ももの付け根に濡れたタオルとかを置きまくるか。やっぱり不安だし」


 近くにおいていたタオルを4つほど拝借すると、軽く湿らせて用意する。今の所順調だが……ここからが問題なんだよなぁ……。


「……ごめんなさい」


 罪悪感を少しでも消そうと、誰も聞いていないというのに謝罪の言葉を発し、おでこ、首の周りにタオルを置く。


「……でも、これはさすがに謝っても、無理だよなぁ」


 そう、1番の問題は脇の下や太ももの付け根にタオルを置くこと。症状はきっと楽になるだろうが、それ以前に大問題なのだ!


 脇の下なんて、閉じてしまっている今、おでことか首とかとは違い、触れないといけなくなる。


 ……ふぅ……ふぅ……ふぅ……。


 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!!!


「よしっ」


 そして、脇を開……



「けないっ!」


 タオルを置こうと近付くが、甘い、女性特有のいい匂いが鼻孔をくすぐる。この匂いが罪悪感を感じさせ、近付こうにも近付けない。


 こうなったら……これは一旦とばして………


「……いや、無理じゃん!?」


 次の太ももの付け根とか、もう警察に捕まっちゃうじゃん!!? 例え看病だからといって、許されるわけないじゃん!


「太ももの付け根って……中ノホウダヨナ……。スカートの……」


 流石に無理だ。タオルを置きでもしたら、即刻捕まる未来しか見えない。


 いや、待て。


「太ももの付け根に比べたら、脇の下って結構楽じゃない? そう思えば、脇の下なら……」


 これなら、なんとか……


「………っ」


 ごくり、と息を呑み東雲さんに近付く。罪悪感を押し殺そうと目を瞑り、僕の脳内にこれは決して東雲さんにふれたいんじゃない、風邪の対処法だと、洗脳しようと試みる。


 …………。


「……や、やっぱり無理だ!! ごめんなさい!!」


 しかし、目を瞑り罪悪感を押し殺そうが、東雲さんのいい匂いが鼻孔をくすぐり、正直のところ耐えられない。


 恥ずかしさから、僕は保健室から逃げ出すのだった。



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