第13話 僕とスーパーの女性

「よしっ……!」


 今は土曜日。そして、ここはスーパー。周りは知らない人だらけ。


 僕は、1人でスーパーに来ていた。なにをするかって? それは……もちろん買い物っ!


 いやうん、当たり前でしょ。


 ほうほう、僕がスーパーに何故行っているのかを聞きたいんだね? それは、あのパスタを再現してみたかったからだ。どうしても、あの味が忘れられない。


 とりあえず作り方や材料は覚えているし、つくれる……気がする!


「はぁ……それにしてと、ひとりでスーパーに入るのってなんか緊張するなぁ……」


 ウィーン


 中に入ると、買い物かごを片手に持ち野菜をぽいぽいと入れていく主婦の姿が何人か見受けられた。女性の比率が高い気がする……。


 いや、うん、気のせいだろう。気のせいだと信じよう。


「……早くほしいものを買ってすぐに出よう」


 えーっと……まずは買うものを確認しておこう。


 と、メモ帳を取り出し買うものの最終確認する。


『スパゲッティ、ミートソース、玉ねぎ、塩、ニンニク、オリーブオイル、こしょう、トマト、合挽き肉……あと、薄力粉、コンソメ』


 なんか、東雲さんが言っていたようにそのまま書いちゃっている……。東雲さん、合い挽き肉のあとが言えてなかったよなぁ。一生懸命に記憶から絞りだそうとしている姿がかわいいかったっ!


 ……ゴホンゴホンッ。なんでもございません。


「じゃあ、まずは……」


 そして、スパゲッティを探そうとスーパー内を歩き回った。けれど、普段は買わないスパゲッティ、なかなか見つからなかった。


 えーっと……覚えてない……。どこにあったっけ。


 そして、その場でくるくるくるくる回っていたそんな時だった。


「あのー……」


 僕は、声のしたほうを向いてみると、主婦だろうか、買い物かごをもつ女性の姿があった。品が感じられる、多分、どこかの豪邸に住んでいらっしゃるんだろう。


 でも……なんだろう……?


 どこかで見たような顔だな……。


 そんなにありふれたような顔でもないと思うけど。結構美人でいらっしゃる。まぁ、東雲さんにはかなわないけどなっ。


「は、はい。なんでしょうか?」


「今、困っていると思ったので声をかけたんだけど、なにかわからないものがあるの?」


「あっ、はい……実は……」


「探してあげるよ」


「あっ…えっ……ありがとうございます!」


「それで、あなたはなにを探しているの?」


「えーっと……これでして……」



 そう言って、僕は自分が書いたメモ帳を見せる。すると、この女性は驚いていたような顔をした。何か……おかしいことでもあったのかな?


「へぇー、これをあなたがつくるの?」


「はい。」


「……これ……私のパスタの作り方だわ……偶然……?」

 

「はい? ごめんなさい、なんて言いました?」


「あっ……いえ、なんでもないのよ。……その、一つ聞きたいのだけど、これってあなたが自分で材料を決めたの?」


「いえ、僕の友達? が教えてくれました。その人にこの前食べさせて貰ったんですけど、おいしくて。作ってみようかなって」


「……私の娘もこの前、この材料でパスタを作ってあげたとか言ってたわね……」


「……えーっとごめんなさい、なんどもなんども聞き逃してしまって。な、何と?」


「あっ別に大丈夫。もしかしてだけど……あなたの名前は『律』って言わない?」


「えっ……!? なんでわかったんですか? 分かる要素なんてどこにもなさそうなのに……」


「いや、忘れて。それで、私も同じ材料を集めるつもり……じゃなくて、集めようかな、私も作ってみようかな」


「そうですか? おいしいですよ、結構おすすめです」


「……うん、やっぱりこの子だ……」


 今日は耳が遠いのかな? この人の言葉がたまになんて言っているのか聞き取れない。


 そんなことを考えながら、僕はこの人に連れられてなんとか材料を集めることができた。多分、覚えてるんだろうなぁ。


「本当にありがとうございます!」


「いや、いいのよ。私も楽しかったし」


「そう……ですか? そ、それなら、良かったですけど……」


「本当に本当よ。……琴葉ちゃんの気になっている人に出会えて、それに話すこともできたんだし……」


 ……今日は早めに寝ようかな……。全然声が聞き取れない……。


「じゃあ、さよなら」


「えぇ、さようなら。『律くん』」


「……………………………………へ?」


 次は……幻聴? 律くんって聞こえたんだけど……。


 今日は耳がおかしい日か。聞き取れないし、聞き取れたとしても信じがたいような言葉が聞こえてきた気がしたし。


 僕は、戸惑いながらこれは本当のことなのか嘘のことなのか戸惑うばかりだった。

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