主従廻戦21

 ジョーワンがフェース本土の壊滅を知ったのはエシファン海域にてコニコと共同戦線を張っている時であった。海上にて偵察していた戦闘艦が駆け付け、その被害の程を語ったのである。


「何もかもが吹き飛んじまった。上陸してみたが誰も生きちゃいねぇ。建物もめちゃくちゃだ」


 そう報告する男に毛髪はなく至る所に乾いた血痕が付着しており、報告中にも出血が止まらない様子で、包帯には血の斑点が滲んでいた。間違いなく被ばくの症状である。



「分かった」



 報告を聞いたジョーワンはコニコへと上陸した。現運営本部に戦争からの撤退意思を伝えるためである。


「我が国は滅びました。これ以上の抵抗は無意味なものだと判断し、我らは戦争から手を引きます。まだ続けるというのであれば、ドーガより鹵獲した戦艦をお譲りいたしましょう」


 国が滅びれば戦いを続ける事はできない。ジョーワン達に残された道は逃走だけである。かくなる上はドーガより遠く離れ、身を隠しながら暮らす他ない。それこそがフェースの人間が今後唯一真っ当に生きていける方法であり、僅かばかりの尊厳を守る手段であったが、コニコの人間がそれを認めるはずがなかった。


「貴様らだけがまんまと逃げおおせるとな? 左様な身勝手、許されるわけがなかろう」


 コニコ国主代理はそう述べるとジョーワンを拘束し、兵にバルトフィールドの奪取を命じた。勝ち目のない戦いで孤軍となる国が、感情面でも戦略面でも逃走など許すわけがない。フェースの兵達は捕らえられ監禁。ドーガに引き渡すか、それとも駒として利用するか検討がなされたが、結局のところ、最後の言葉を発することなく皆殺された。これは完全にジョーワンの失策であるように思われたが、実は船員の何名かは二組別れ海域を脱出していたのであった。一方はトゥトゥーラへ、もう一方は未知なる外海へと航路を切り、波を割っていた。無論、これらはジョーワンがコニコ上陸前に指示した事である。彼は最後に、敗戦の責任を取るために自らを犠牲に捧げたのだ。そしてそれは他の者も同じである。彼らは皆、共に戦い、負け、そして未来のための犠牲となる選択をした。人権が再び剥奪され命が辱められようとも、フェースの血を残す道を選んだのである。その魂には黄金が、穢れなき高潔さが宿っていたが、フェースの人間以外が感じる事はできなかった。




 バーツィットが降伏しフェースが滅びると、コニコはいよいよ万事休すとなり、軍部には狂気が侵食していった。元より望んで開戦したわけではないが退けぬところまで来てしまった以上進むしかなく、強いられた戦いにより邪悪なる不退転の意思が芽生え戦場をより一層地獄色に染めていった。目的のない徹底抗戦は手段を問わず、次々と醜悪で露悪的な戦法を取るようになる。まず、少年少女に武器を持たせ、わざと見えるように前線に出し敵の士気を削いだ。対峙していたエシファンとホルストの兵士たちは少年兵を殺す内に何人も精神を病み疲弊していく。良心の呵責に堪えかねて自殺者が出始めるといよいよ末期的な状態となり軍にはオピウムをはじめとした薬物が支給されるようになった。これによりホルストとエシファンは自国の戦後補償が難航し、戒めとして後世に語り継がれたのだが、極限状態により切迫した兵に対して代替となる方法は見つからず、これから先に起こる戦争においても同じ轍を踏む羽目となる。


 コニコは更に子供に爆弾を仕掛けて自爆させる手口や惨殺した捕虜の写真や音声を基地にばら撒くといった卑劣極まりない手作戦を取るようになる。ここまでくるとさすがにトゥトゥーラも看過できず、また、ドーガにおいても容赦なく攻撃ができる口実ができたため、連合国総戦力で一挙にコニコへと進行し本土を占領。責任者は戦犯としてもれなく処刑され、エシファンの役人が統治を行う事と相成った。フェースの反乱から始まった戦争は、こうして終局を迎えた。


 開戦から終戦までかかった月日は一年にも満たず、先の大戦と同様、短期決戦となったのであるが、払った犠牲は余りに多く、また、甚大であった。比較的ダメージの少ないバーツィットでも国の主要拠点の何割かは破壊され、多額の賠償金を支払わなければならない。コニコにおいては国としての機能を奪われ、しばらくはエシファンとドーガの完全な支配下に置かれる。そして、フェースは核により破壊。中央部は死の大地となり、僅かに残った本土の生き残りは再び奴隷として植民地へと輸送され労働を強いられた。後年、散っていった奴隷達の子孫が集うとフェースは復興し国として独立。ドーガと冷戦状態となるが、それは遠い先の話。現状では、巨大な爆破後が残るだけであった。


 戦争が終わり、連合国には束の間の平和は訪れたかに思えた。しかし、戦後の混乱に乗じ

 暗躍する影がちらほらと見られるようになる。その影はまず、トゥトゥーラにおいて、大きな問題を引き起こすのだった。俗にいう、パイルスの乱である。

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