輪廻転生

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輪廻転生

 ある男が不慮の事故で死に、神の憐みで異世界に転生した。健康な体に淡麗な容姿、恵まれたスキルとステータスを授かり、男は第二の人生を異世界で歩み始めた。


 地方都市の赤ん坊に生まれ、裕福とは言えずともあたたかい家庭で育ち、最初のうちはこの人生を大切に生きようとしていたが、どんな属性の魔法でも使えると気付いてから、欲望に飲み込まれていった。


 幼なじみの女の子には見せびらかすようにレアなアイテムを創り出してプレゼントする、炎魔法で意地悪な貴族の家を焼く、干上がった土地に隣の大陸から水を持ってきて降らせるなど本人は善意のつもりのやりたい放題。


 十五歳の成人を迎え、男は幼なじみを連れて旅に出た。世界がどうなっているのかまでは、知らなかったからだ。道中ドラゴンやらスライムやらをテイムし、奴隷を拾ったりもした。何でもいうことを聞いてくれる仲間を増やして、男は各地で困りごとを解決していった。


 そうして世界を巡る中で気に入った女性を見つけると、服従のスキルで一般市民に襲わせ、助けに入ることであたかも正義の使者のように見せ信頼させ、いたいけな少女を旅のメンバーに加えていく。


 彼は己の力(本来は神の力)を誇示するためだけに、度々一般市民を暴漢にして騒ぎを起こさせ撃退した。周りの人間からすごい流石の合唱聞くのが堪らなく快感だった。


 最も酷かったのは、人間も魔物も獣人も精霊も、皆平和に暮らしていた世界で差別や偏見につけ込んで戦争を起こしたことだ。見た目で差別されることの多かった魔物の長である魔王に罪をなすりつけ、それを一人で退治するというとんでもない自作自演で英雄となった男は、一躍世界の中心的存在に成り上がった。


 一国の主となり、住まいは宮殿になった。旅の仲間全員と結婚して、第八王妃までの席を埋めた。物も女も望めばなんでも手に入るようになった男は、世界は自分のためだけに存在しているのだと、信じて疑わなかった。


 ある日赤いスーツを着た死神がやってきて、お前の魂を回収しに来たと言う。どんな攻撃も魔法もスキルも通用しない死神が恐ろしくなった男は、何でもするからそれだけは許してくれと頼み込むと、死神は呪いをかけた。




 転生し続ける呪いを。




 その後暫くして男は突然の病で亡くなった。しかし、また別の世界の神の慈悲で転生し、同じような人生を歩んでは同じように突然死ぬ。それが繰り返されるようになった。


 転生回数が増えるごとに、神のいる位置が遠くなり声が良く聞こえなくなった。寿命が極端に短くなったり、高齢まで飛んだりするようになり、赤ん坊はおろか十代二十代に転生することは出来ず、よくて四十代後半からの人生しか送れなくなった。


 何度目かの老体に転生した男は、ボロい廃屋の病床で一体いつまでこんなことをすればよいのかと泣いたが、そこに反省はなかった。自分が悪いことをしたなど毛頭思っておらず、あの死神さえ来なければと恨むばかり。


 心もそのままで、自身はまだ若い男だと認識しているが、他から見れば人との接し方がわからないまま意固地になった爺さんだ。昔は大層な魔法やスキルがあったと、過去の栄光に縋り付く惨めな老人だ。


 そんな老人に声をかける女など当然おらず、モテモテハーレムで女の子に囲まれていた世界を思い出していた。履いて捨てるほどの物と財力と権力のあった、あの素晴らしい世界に戻りたい。


 そうだ、神に言ってやればいいんだ、次の世界ではもっとマシな人間になるように。何故今まで気づかなかったのか。


 突如として閃いた男は、縫い合わせたシーツで首を括り、自ら命を絶った。





「おっ、終わったっすね」


 チーンという音が鳴り、赤いスーツを着た死神は電子レンジから回収した魂の入った瓶を取り出した。このレンジは輪廻転生を体験させ、魂の反省を促す物だ。天寿を全うするか自殺すると、終了音が鳴る仕組みで、反省していればあれば色は青く変わるのだが、この魂は回収当時と変わらず赤い色をしていた。


「こりゃダメみたいっすね……」

 頭をポリポリ掻いて、死神は瓶をそのまま焼却炉へ放り込んだ。ため息をついて、報告書を書いていく。


「回収番号14752 真谷 昴 結果:不良の為廃棄 っと。はぁ〜これで今週七件目っすよ〜〜」

 死神は徹夜明けのサラリーマンのように、事務椅子に腰掛けたままぐったりと机に突っ伏した。

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